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バリー・リンドンのtorumanのレビュー・感想・評価

バリー・リンドン(1975年製作の映画)
4.1

絵画が3時間動き続ける奇跡

スタンリー・キューブリックが『時計仕掛けのオレンジ』の直後に撮影した作品です。
18世紀、田舎育ちのバリー・リンドンが、恋敵を決闘で殺し〜警察から逃げた挙句〜イギリス軍に入隊〜辛い日々に軍から脱走し〜二重スパイに成り下がり〜そこから詐欺師への道〜大富豪リンドン家を乗っ取り…。
へたれ男のピカレスクロマンです。
(2部構成になっています)

ストーリーはへたれを描いていますが、映像は凄いです。
全編が古典主義やロマン主義の絵画のようです。
画面の構成、調光、衣装、圧倒的な物量、全てがTHEキューブリック!
この映像美だけで3時間観ていられます。

少ない光源で撮影できるNASAが開発したレンズにより、照明を使わずに当時と同じロウソクの火だけで撮影を行いました。
18世紀そのものを描く為に、NASAの技術を使うアンマッチさも面白いです。

作品本編の要所要所の見せ場も素晴らしいです。
・陣形を維持し、演奏しながら敵陣に向かう独特の戦闘場面。
・ラスト近くの執拗な決闘場面
いかにもキューブリック的な場面で目が離せません。

キューブリックの凄いところは、ジャンルに関係なく一級の作品を撮ることです。
前回がモダンアート的な『時計仕掛けのオレンジ』、今回がクラシカルな『バリー・リンドン』どちらの絵作りも完璧です。
それでいながら、どちらもキューブリックの作品として分かる…。天才ですね。

この作品で今までのキューブリックと違う点は、物語が分かりやすくて面白い事です。
物語を一生懸命考えながら追う事なく、映像美に浸りきれる楽しさがあります。
この作品はキューブリックの中でもとりわけ知名度が低いですが、充分に観る価値がある作品です。
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