亘

バリー・リンドンの亘のレビュー・感想・評価

バリー・リンドン(1975年製作の映画)
3.9
【野心家バリーの盛者必衰】
18世紀アイルランド。田舎者レドモンド・バリーは、従姉ノラに恋をしていた。しかし彼女をクイン大尉に奪われると決闘を決意。その結果彼は故郷を追われる。それは彼の波乱万丈な人生の始まりだった。

バリーの成り上がりと没落を伝記のように綴る大作。完璧主義者キューブリックが作り出す映像や雰囲気は、観客をまるで絵画を見ているような気にさせる。今作は第1部と第2部からなっており、第1部では田舎者バリーがいかに上流階級に成りあがったのか、第2部では彼がいかにして没落していったのかを描く。この2部構成が大きいけども実は今作の重要なポイントはその後のエピローグであるようにも感じる。

第1部≪レドモンド・バリーが如何様にしてバリー・リンドンの暮しと称号をわがものとするに至ったか≫
バリーはアイルランドの片田舎で裕福ではない家庭で育った。彼は従姉ノラと恋に落ちるが、厳しい家庭状況から財産目当てでノラはクイン大尉との縁談が決まってしまう。納得できないバリーは大尉に決闘を挑み大尉を撃ったことで故郷にいられなくなる。彼はダブリンを目指すが追いはぎに資産を取られやむなく兵に入隊。その後「二度と紳士の身分を失わない」と誓い脱走するが嘘がばれプロイセン軍に入隊。そこで頭角を現すとプロイセンからアイルランド人スパイの偵察の仕事を得る。しかしそのスパイ、バリバリ氏につき彼らは賭博で生計を立てはじめ、ついに彼は運命の女性リンドン女伯爵に出会う。

バリーは故郷を追われてから、イギリス軍→プロイセン軍→プロイセン警察→バリバリ氏と次々に仕事を転々とする。この時点でかなり波乱万丈だけど、ここまで生きながらえたのはバリー自身の天性の機転や勇気、剣術・銃・武術の腕前のおかげだろう。場所は変われどそのたびバリーは機転や勇気で成り上がり、直接対決では剣術や銃。武術で勝ってきた。まさに実力でのし上がれたのだ。

第2部≪バリー・リンドンの身にふりかかりし不幸と災難の数々≫
バリーはリンドン女伯爵と結婚し上流階級の生活を手に入れた。この時の彼の最大の失敗は妻を放置し他の女性と遊んでいたこと。彼の女遊びは止むが、妻が鬱屈とした日々を過ごしていたことから、妻と前夫との間の子ブリンドンは成長につれバリーに敵意をむき出しにする。バリーはその後貴族の称号を得ようと奮闘。しかしある日悪態をつくブリンドンに殴りかかったことから[バリー・リンドン=乱暴者]というイメージが生まれ彼は次第に冷遇される。一方で彼は妻との間にできた子ブライアンには優しく良き父だった。そのブライアンが事故で死ぬとバリーは酒浸り、妻は祈りに没頭し夫婦の生活は一気に崩れてしまう。そしてブリンドンとの決闘からバリーは負傷、帰国を促される。こうして彼の優雅な生活は幕を閉じるのであった。

第1部ではとんとん拍子で成り上がった彼がなぜ足踏みをしたかといえば、上流階級の世界では実力だけで上に行けないからだろう。この世界では能力よりコネクションなどステータスが重要なのだ。そして執念深いブリンドンの存在も災難だった。彼の憎しみは母思いもあるが成り上がり者への偏見もあるのだろう。当初の女たらしが止んでからバリーは良き父になるし、性格も丸くなったからこそブライアンの死後の堕落は不憫だった。終盤ブリンドンとの決闘で、情けないブリンドンに対してバリーは発砲しなかった。これはかつての血気盛んなバリーからは考えられない変化だった。バリーは本物の"紳士"になったのだ。だからこそその後のブリンドンの仕打ちはひどいものに見えたし、バリーが不憫だった。

エピローグ≪これはジョージ3世の治世に生き、争った人々の物語。善人も悪人も、美しいものも醜いものも、裕福なものも貧しいものも、今となっては皆等しく亡くなっている≫
この1文こそ今作を大作にするラストピースかもしれない。今作ではバリー・リンドンという1人の男に注目したが、実際には同じような人々が他にもたくさんいた。そして当時上流階級にいた/なった/なれなかった者も没落したものも皆今では同じなのだ。まさに諸行無常や盛者必衰を体現した大作だろう。

印象に残ったシーン:バリーが決闘をするシーン。バリーがリンドン女伯爵と出会うシーン。エピローグ。

余談
・今作はキューブリック監督が徹底的に当時を再現するため。以下のような工夫(一部)がされました。
〇ろうそくの明かりだけでの撮影
〇宇宙開発用レンズの使用
〇当時制作された音楽の使用
・今作の軍隊は全てアイルランド陸軍の歩兵を起用したそうです。
・当初キューブリック監督はナポレオンの伝記映画を制作しようとしていて予算の都合上今作に切り替えたそうです。
・原作はサッカレーの小説"The Luck of Barry Lyndon"です。