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バリー・リンドンのtjZeroのレビュー・感想・評価

バリー・リンドン(1975年製作の映画)
4.1
文系・理系で映画監督を分けてみると?

その監督さんの専攻とか出身学部などは関係なく、作品の印象だけで分類してみようという試みです。

《文系》 ジョン・フォード、黒澤明、ビリー・ワイルダー、サム・ペキンパー、フランソワ・トリュフォー、フランシス・F・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、チャン・イーモウ、伊丹十三、クエンティン・タランティーノ

《理系》 ハワード・ホークス、小津安二郎、アルフレッド・ヒッチコック、ドン・シーゲル、ジャン=リュック・ゴダール、マーティン・スコセッシ、ブライアン・デ・パルマ、ウォン・カーウァイ、是枝裕和、クリストファー・ノーラン

思いつきで分けたので、異論・反論あろうかと思いますが、反対意見が出なさそうなのが、本作の監督スタンリー・キューブリックが理系、というカテゴライズ。

感情よりも論理、ファンタジーよりも科学を優先しそうな作風。
登場人物の見つめ方も、内面に入りこむというより、顕微鏡で微生物を観察しているような冷徹さ。

本作の舞台は18世紀の欧州。
アイルランドの田舎出身のバリーは、英&独で従軍した後、公安や賭博師を経て、上流貴族に成り上がる数奇な半生。

大胆にして小心、勇敢なのに臆病、バカ正直なのに大嘘つき…というつかみどころのない主人公の描写に、感情移入を拒むキューブリックのドライなタッチがハマっています。

そして何より、驚異的な映像美。
自然光だけで撮ったという野外の場面は、太陽という巨大な光源のみを照明にしているため、遠景の隅々までクッキリと見えて、我々が普段観ている映画とは全く異なったルック。
そして一転、ロウソクの光のみで照らした室内のシーンは、見せたいモノだけがほんのりと浮かび上がり、深い闇とのコントラストに立体的な厚みがあります。

これは、電気の無い18世紀の風景をそのまま再現しちゃったわけで、本物を観てるんだ、という手応えというか、見応えがぶ厚い。
レンブラントとかルノアールなんかの、絵画の中の人物が動いてるみたいな美しさがあります。

音楽もたぶん、当時に実在した楽器だけで演奏しているんでしょう。
キューブリックの完璧主義ぶりに、背筋が凍りそうになります。
あまりに隙が無くて、かわいげが感じられないくらいの立派な作品であります。
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