えんさん

海は燃えている イタリア最南端の小さな島のえんさんのレビュー・感想・評価

2.0
イタリア最南端に位置するランペドゥーサ島。この島は北アフリカにも接しており、地中海を通じて、アフリカからの難民たちにとってはこの島はヨーロッパへの玄関口でもあった。この島に住む少年サムエレは、友達とパチンコ作りに夢中な12歳の少年。自由奔放に生きる彼の傍で、命をかけて、平和と自由のために決死の覚悟で海を渡ってくる人々もいた。この島を舞台に、島民の日常や過酷な旅を経て島にたどり着いた難民・移民の姿を映し出す。。「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」のジャンフランコ・ロージ監督による第66回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞のドキュメンタリー。

ヨーロッパでは極右政党が大きく躍進している昨今ですが、先日行われたフランス大統領選挙でもリベラル派の候補が極右政党の候補を破るなど、まだ中世から続く自由と平和のヨーロッパの魂は死んでいないのかなと思います。ですが、アフリカやアラブで引き起こっている長期の内戦やテロは大量の難民を生み出し、それが流れ込むヨーロッパではそうした難民たちの救済で政府の財政が逼迫し、経済的にも、特に低所得者層を中心に職を奪われるなど、活発化しない世界経済の中で、なかなか厳しいのも事実なのです。遠い島国である日本ではありますが、北朝鮮情勢がここ数ヶ月厳しい局面を迎えていたことなど、もし仮に朝鮮半島で有事が発生したときに、ミサイル攻撃などの直接的な被害がなくとも、内戦状態に発展すれば日本海を越えて、難民が流入して来る危機がないとも言えないのです。決して対岸の火事ではなく、私たちの日常に難民問題が降り掛かったら、、という想定で観ていると、本作は非常に心揺さぶられるものがあるかと思います。

本作はランペドゥーサ島の二面性をドキュメンタリーとして描いていきます。1つは地中海の穏やかな気候と、南イタリアの風が吹いてきそうな心地よい島の人々と風景が、少年サムエレの毎日として描かれる。ここにはヨーロッパの人たちの平和な日常しかないのです。対象的に描かれるのは、その平和な毎日のほぼ数海里先の海の上で起こっている、アフリカからの難民船に起こる悲劇。様々な弾圧や経済的な困窮した人々が、なけなしのお金を払い、定員オーバーなボロ船に押し込まれながら、地中海を北へ上ってくる命をかけた旅。お金を払え、風が通る船上の席を得れた人はまだしも、狭く暑さと湿気しかない船倉に押し込まれた人々は、長い航海の中で身を削り、熱中症や脱水状態に陥り、死に至る人たちもいるという惨状。イタリアの海上警備隊に発見、救出される様を淡々をカメラは追っていきますが、やせ細り、息も絶え絶えな人の姿は目を覆いたくなるほど。こうした現実を克明に捉える映像は見応えというか、観る者を凍りつかせます。

しかし、本作のちょっとおかしなところは、こうした二面的な映像構成になぜしたのかというところ。少年サムエレの毎日が特に意味を持たないので、幸運にも慎ましく生きているヨーロッパの人たちと、悲劇的なアフリカ難民という、この構図に何のメッセージがあるのかということを感じてしまうのです。金熊賞作品なので、芸術的に優れているのかもしれませんが、悲しいながらも運命として違うのであるから、意図的に対立軸を見出すことに何かおかしな違和感を感じてしまうのです。ただ、現実を映し出すドキュメンタリーとして、もっと徹するべきなのではなかったのかというのが、うがった僕の見方なのかもしれません。