主人公は哲学の教師。それも中年女性の。個としての価値と、他者と共に生きていくことの確信をもち、社会のあり方としての民主主義を信じる。いわゆるフランスの近代的知識人。
さてこの前提をもとに物語は、主人公から母、夫、息子・娘、出版社・編集者、教え子等々を離反させていく。
彼ら彼女らが自分のもとから去っていくことについて《束縛からの解放》という意味を自身に与えられているうちは、主人公は逆説的に、《自己の自由》と「かくありたい」という《自己の意志》の存在を自身に強く感じさせることができる。
けれども、この自由の中には、或る種の《寄る辺なさ》と《不安》が混じっている。これが存在の確信に揺らぎを与えていく。
近代哲学に対する現代の挑戦が、《脆弱なるがぬえに他者に強く依存せざるをえない生》によってほんのりと明るく照らされていることは皮肉であるのか、もう一巡して掴み直された近代哲学の可能性なのか。
このアンニュイさと、多くを語らせずに表情で感じさせるという空気感はやはりフランス的だと思う。