chiakihayashi

メットガラ ドレスをまとった美術館のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

4.0
スミマセン、誤植を直しました。

 ファッションをテーマにしたドキュメンタリーでも、そのゴージャスさは群を抜いている。メットガラとは雑誌VOGUEの辣腕編集長アナ・ウィンター(『プラダを着た悪魔』のモデル)がニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)の理事として主催する服飾部門の資金調達のためのイベントで、席料は一人25,000ドル。そのレッドカーペットから始まるのだけれど、アカデミー賞のレッドカーペットでは主役はドレスを纏った女優さんなのに対して、こちらはドレスそのものが主役。

 カメラは2015年に開催された「鏡の中の中国China: Through The L
ooking Glass」の準備からオープニングのガラまでを追う。企画したのは、2011年に故アレキサンダー・マックイーンの回顧展を大ヒットさせたキュレーターのアンドリュー・ボルトン。〈オリエンタリズム〉との批判は承知のうえで、ボルトンも服飾品を提供するデザイナーたちも、彼らが思い描く中国は幻想であることを強調する。その華麗な〝他者〟の夢こそがファッションの源泉なのだから。

 その中国への幻想がもっぱら過去の歴史に向けられていることに、経済大国となった中国本国の記者はインタビューの席で苛立ちを隠さない。が、そこで同席したアナ・ウィンターは、現在の一党独裁体制の中国に新しいクリエィティブなファッションは期待できないという事実を言外に、しかし明確に想起させるのだ。

 この展示企画で現実の中国以外にもうひとつ消されているのは、それらの美しい服を実際に着用した女性たちの存在である。ファッションは芸術のひとつか? という問いが繰り返されるのだが−−−−興味深いことにデザイナーたちはそれを否定する−−−−アートとして展示された服を着せられたマネキンには当然、顔はない。雑誌VOGUEの絢爛たる仕掛けに満ちたグラビアでも、ショーのランウェイでも、モデルたちは個性があるようでいて実は虚ろなペルソナだ。恋人がファッション・デザイナーのトム・ブラウンであるボルトン自身、跪くのはドレスというアートに対してであり、そのドレスを着ている女性ではない・・・・・・。

 なんという壮大で贅沢なフェティシズム!

 ちなみにMETの服飾部門の主席キュレーターとなったボルトンは今年、「川久保玲/コムデギャルソン展」を開催する。

 

 
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