こたつむり

ある戦慄のこたつむりのレビュー・感想・評価

ある戦慄(1967年製作の映画)
3.7
★ 教訓:アメリカでは深夜に出歩かない

とてもイヤな気分になる物語でした。
午前二時の電車の中で、ある騒動をきっかけに人々の本性が露わになるドラマなのですが、観ている側に“殴りかかってくる”表現が多いので心を抉られるのです。

何しろ、登場人物は普通の人たちばかり。
ある一面を強調するように描かれていますが、それは多かれ少なかれ誰もが持つ部分。誰にだって慎重な時もあれば、楽観的な時もありますし、文句を言いたい日もあれば、下向き加減な日もあるのです。

だから、否定も肯定も出来ないのですよ。
その中途半端な感覚こそがサスペンス。
ゆらりゆらりと揺れる振り子が右に倒れるのか、左に倒れるのか。手に汗握る場面は最後まで終わりません。

ただ、1967年の作品ですからね。
演劇の動きは虚構を超えず、迫力が無いという批判があっても当然。たぶん、現代の感覚でリメイクしたら、もっと暴力的な表現になるのでしょう。

しかし、先にも書きましたように本質は別。
一種の極限状態において「貴方ならばどうするのか?」という設問が主軸です。枝葉に囚われず、自身の心に問い掛けないと…きっと物語を堪能できないと思います。

何よりも、秀逸なのは「この騒動は現実にも存在する」と考えてしまうこと。騒動の中心にいる《チンピラ》の“言葉の暴力”は見事なまでに現実的で、思い返すだけでもイヤな気分ですよ。

ただ、それでも難を言うならば。
物語が本格的に動き出すまでが長かったですね。かなり巧みな筆致ゆえに焦らされた気持ちになるのです…って、あれ。難点じゃないかも。

まあ、そんなわけで。
イヤな気分になりますが、実際に直面する可能性も踏まえて(そんなこと考えたくないけど)積極果敢に触れた方が良い物語。頭の中でシミュレーションをするように鑑賞することをオススメします。

…ちなみに僕が一番近い立ち位置だと思ったのは…やっぱり、保守的な父親。自分もタクシー代をケチりそうで…うう…。
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