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エルヴィス、我が心の歌のemilyのレビュー・感想・評価

エルヴィス、我が心の歌(2012年製作の映画)
3.7
昼は金型工場で働き、夜はエルヴィス・プレスリーのトリビュートアーティストとしてステージに立つカルロス。エルヴィスの生まれ変わりだと信じてる彼は、生活一式を彼と同じように過ごしている。娘にもエルヴィスの娘と同じ名前をつけている。しかしそんな”お遊び”に愛想つかして、妻は娘を連れて、出ていった。そんなある日二人が事故にあってしまい、娘の面倒を見るようになる・・

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「BIUTIFUL ビューティフル」「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で共同脚本を務めたアルマンド・ボーの初長編監督作品。そうして主役を演じるのは、実際にエルヴィスのトリビュート・アーティストとして活動しているジョン・アキナニー。なので非常に歌がうまい。しかもなんだか心に響く歌声なんです。そうして体系まで一緒。とにかく徹底していて、それに誇りを持ってる姿が痛々しくいとおしい。

しっかりした娘と現実主義の妻、それに対比する夢を追い、過去に生きる42歳の誕生日を迎えるカルロス。娘の面倒を見ることで、二人の時間の流れの対比がしっかり読み取れる。娘のほうがずいぶん大人で、大男のカルロスは夢の中で生きてる夢想主義者。

それでも子供は順応性が高く、そんなお父さんにも影響されて、昔好きだった、今は全く食べないものを一緒に食べるようになったり、少しずつ交わっていく。少しずつ父親としての自覚が芽生えてくるが、大きな夢を捨てるわけにはいかない。そのために生きてきたのだから。

それでもできることを妻と娘にしようと少しずつ行動し始めるカルロス。スロースターターではあるが、少しずつ表情が生きてきて、だれかをいとおしく思う、守りたいと思う。徐々に父親の顔になっていくのが印象的だった。でもそこで終わらないのが今作の素晴らしい所。夢と家族・・家族ではなく夢を選ぶ人のほうが少ないかもしれない。でも彼はエルヴィスなのだ。
周りが何と言おうとエルヴィス・プレスリーなのだ。それは彼にとって唯一、かけがえのない事実なのだ。

夢を追いかけるのは素敵だし、それは生きがいにもなる。
そうして夢を見るのは自由である。
誰にだってその権利は平等にあるし、どんな夢であれ
それは個人の自由だ。

しかし夢を追うということはその分、何かを捨てることにもなる。美しさの裏には必ずその厳しさが眠っているのだ。
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