マヒロ

透明人間のマヒロのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
4.0
光学研究の第一人者であるエイドリアンの恋人・セシリア(エリザベス・モス)は、エイドリアンの暴力的なまでの束縛に耐えかね妹の協力を得てこっそり家を抜け出す。後日、絶望したエイドリアンが自殺したという報せがセシリアの元に届くが、時を同じくして不可解な現象が起こる様になる……というお話。

儚くも消え去っていった「ダーク・ユニバース」のジョニーデップ版透明人間の代わりとして作成されたらしい作品だが、結果代わってて良かったなと思える面白さだった。 監督のリー・ワネルはジェームズ・ワンの相棒くらいの認識だったが、こんなに良い映画を撮る人だとは思わず失礼ながら驚き。

これまでの作品で言うとカーペンターの『透明人間』とバーホーベンの『インビジブル』というクセの強い二作を観たことあるが、それらと決定的に違うのが狙われる被害者の視点になっているというところで、透明人間が実在するのか否かというところすら曖昧であり、セシリアが狂っているだけにも見えるところが恐ろしい。
他人からは見ることが出来ないDV被害というものを、そのまま透明人間という形で具現化しているあたりが上手くて、単なるモンスターパニックではなく現実的な恐怖のメタファーとして怪異が存在しているところが現代的で良かった。

目には見えないということを最大限に活かしたカメラワークも良くて、何もいないはずの空間を映すだけで何か起きそうな怖さがあるし、セシリアが妹とレストランに行く場面など、決定的に何かが起こる瞬間のスマートな展開の処理の仕方なども気持ちよい。

主人公・セシリアを演じるエリザベス・モスの怪演も凄まじく、追い詰められるほどジャック・ニコルソンばりの強烈な眉芸を披露してくれたりと、ただ追われるだけに終始しない素晴らしい存在感。逆に彼女を支配しようとするエイドリアンはあんまり印象に残らないが、その存在の希薄さ…もとい透明感が逆に怖い。

単なるクラシック映画のリメイクというだけでなく、現代に通じるテーマを違和感なく混ぜ込んでなおかつスリリングさも失わずホラーとして楽しめる良作だった。

(2021.35)
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