LudovicoMed

透明人間のLudovicoMedのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
4.3
ポランスキーの『反撥』進化系、最恐ニューロティックホラー。

"透明人間"といえば、ユニバーサル系クラシックモンスターの中でも地味枠であるせいか、世間的には映画を通り過ぎスケベなハラスメントやりたい放題な、男達の夢のアイコンとしてパブリックイメージが浸透しています。

ところがここにきて、透明人間なるコンテンツをとんでもない恐怖の起爆剤として脱構築してみせた。
まず、本作はDV夫に悩むヒロインにスポットを当て、やがて『反撥』のカトリーヌドヌーヴよろしく、恐怖の実態が無くともトラウマが眼下を一人歩きしてるような強迫観念に取り憑かれてしまう。
DVによる恐怖症をニューロティックスタイルで観る者にも恐怖をシェアし、じっくりと追い詰めていくのだ。

まさにこの映画は、ニューロティックなる視点+透明人間という実態、による足し算で感じたことのない発明的恐怖が襲ってくる。
そうなってくると、まるでJホラーのもしくは、心霊モノのような怪奇現象が彼女を襲い、カメラワークも『覗き込む』形で得体の知れない実態が、そこまで迫ってきてる気持ち悪さを生み出す。加えて『何もない空間』をこれ見よがしに映し出す不自然さに、観客はつい構えてしまう。しかし特に何も起こらないミスリードを見せびらかすため、満を辞して現れる透明人間に、思わず「なんじゃ!」とドッキリ大成功させられてしまうだろう。

更に透明人間からの攻撃が、髪を鷲掴まれ床を引きずり回し、邪魔な家具はブン投げながら迫る、如何にもな、慣れたDVスタイルが、過去の虐待を物語るのです。同時にエリザベスモスの空間相手の一人狂い芸っぷりを堪能できる。

そう、彼女の行為は『透明人間』のタイトルを知る観客以外、つまり他の登場人物からは単にヒステリック状態にしか写らず、糾弾されてしまう。
そして見る見るうちに、とんでもない絶望の地に立たされ、気がつけばDV夫から逃れようとする行為自体が、周囲に被害を齎すことを悟る。
まさに、現実にあるDV被害者の恐怖、大声では助けを求められない環境が、まるごと透明人間にトレースされ襲いかかってくるのです。

ところが、中盤以降は打って変わり透明人間なる"超人パワー"を如何に攻略するか?といったvsヴィラン構図へと豹変する。
透明人間2020は、まるでプレデターもしくは攻殻機動隊さながらの『デザインされたヴィラン』として圧倒的ビジュアルを見せつける。
現実離れなヴィランを前に立ち向かうワクワクでしっかりとエンタメ方位へのツボを抑えつつ、ホラークリシェに縛られない斜め上展開で、目の肥えた映画ファンさえ好奇心を唆られるだろう。

クライマックスには、シャマランも驚愕の「サプラーイズ!」を観客に叩きつけ、カタルシスえも言えぬ「目には目を、暴力には暴力を」な着地にただただ唖然とするばかりでした。
LudovicoMed

LudovicoMed