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T2 トレインスポッティングのkouのレビュー・感想・評価

T2 トレインスポッティング(2017年製作の映画)
4.5
《あの頃走っていた若者はいない》
トレインスポッティングの続編が20年ぶりに公開されるというこの自体が、とても僕としては嬉しく、そして盛り上がりを見せているのが素晴らしい。やっぱり僕たちは、なんだかんだ言ってトレインスポッティングが好きだったんだなと思い返させてくれた。そして今作はとても不思議な余韻を持つ、心に残る作品になっていると思う。

トレインスポッティングの一作目は、何かを選ぶ人生なんてクソだと怠惰にドラッグに溺れる主人公たちが、金を作るため無計画に街中を駆け回る。彼らはドラッグから抜けようとしても抜けられず、地元のしがらみからも抜けられない。しかしラストでレントンが仲間を裏切るという選択をし、何かを選ぶ人生のスタートを思わせる展開で幕を閉じる。

今作はそれから20年後、レントンがエディンバラに帰ってくる。彼らがどんな生活を送り、どんなふうに年を取ってきたのか描かれる。あれから年月がたち、彼らは若者ではなくなっている。白髪でシワが刻まれ、いい年のおじさんになっているのだ。でもここでとても心を打たれたのは、彼らがまだ同じような生活を続けているということ。ドラッグを続けていたり、詐欺まがいの仕事をしていたり、刑務所に入っていたり。そして体力も無くなり、ある種の「死」の影さえ見えているのだ。

20年前、失業者にあふれていたエディンバラは開発され活気を取り戻している。しかし、4人の周りは以前のまま、古く汚い場所で、20年前と同じような生活を送っている。時代に取り残され、むしろ過去よりも窮屈な思いをしているのだ。とてもリアルなのは彼らが決して成長するわけでもなく、今も愚かだということ。でもその姿を笑って流すことが出来ないのは、僕等も同じように年を取って、それでも過ちを繰り返しているからなのだろう。

新しい映像表現(車体に映されるプロジェクション・マッピングや人物の顔にアニメを貼り付けたシーン)、センスの良いカット割りというのは言わずもがな。ストーリーもエピソードもとてもおもしろかった。その中に所々、はっとさせられるエピソードが挟まれる。例えば過去に走った路地で自分の過去の姿を見るスパッド。かつてのレコードに針を落としてすぐに止めるレントン。もういない母の姿を食卓の影で表現していたり、過ぎ去った年月とあの頃を思い出す。人生についての後悔を描いた、胸を締め付ける感覚だ。

また、前作よりもよりシリアスな部分が増えていると思う。特に僕はトミーと死んでしまった赤ん坊についてのエピソードを入れているのがとても納得した。彼らの背負っている罪は深く、決して許されるものではないということ。今作を観て、なんだかトレインスポッティング一作目の完結がやっと出来たというような感覚があった。そんな罪を背負った彼らはお互いを裏切り、そして憎しみ合い、それが最高潮に達する時に今作のラストが訪れる。

時代に取り残され、年だけをとったレントンとベグビーは彼らの中だけで争い、戦い合う。とても不毛で意味のない争いだが、それでもベグビーはそうせざるを得ない。それが彼の生き方なのだ。いつまでも抜け出せないどん底。レントンはそれでもあるレコードに針を落とす。それはどこか決意のようで、切なくもあり、自分の人生を享受しているようでもある。

20年経ち、レントンもシックボーイもスパッドもベグビーも年を取った。そして僕等も同じように年を取った。無軌道で走っていたあの頃の若者はいない。でも僕等は変わることが出来ない。過去のノスタルジックを感じながら、感慨深い思いを持った。それでどこか感動的でもあるのは、父と子という関係性を描いているからだろうか。とても素晴らしい続編だったと思う。僕は今作を観て、前作がより好きになった。もう一度観たい作品。音楽も勿論素晴らしかった。
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