ベルサイユ製麺

T2 トレインスポッティングのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

T2 トレインスポッティング(2017年製作の映画)
4.2
〈私とアンダーワールド〉
随分前。服屋さんの開店待ちをしていた時に、アンダーワールドの《rez》の着メロ(古代のテクノロジーです)が鳴り出して、電話を取ろうとしたところ、実は列の隣の人の着メロだったって事が有りました。そのくらいアンダーワールドは流行ってたという話です。勿論「奇遇っすね!」と話しかけたりはしなかったです。トゥー・シャイ。

〈私とトレインスポッティング〉
当時はそこまで映画好きでも無かったものの、“オシャレ映画”みたいな扱いが癪で、「ケッタクソワリー」って思ってました。「だいたいborn slippyとかダサイ!ふつうcowgirlかrezでしょ」なんて罵倒などして、なんとか観ない様にしていたのです。ケッタクソワリーのは自分の方ですね。
で、それから随分経ち、周りの顔触れも一巡して、本来のダサイ自分と向き合える様になった頃に、やっと『トレイン・スポッティング』を観ることになったのでした。
びっくり。すごい面白い。多分当時サントラが飛ぶように売れていたと思うのですが、最先端のオシャレサウンドとかでは無くて、寧ろ純粋に物語のシーン毎に一番しっくりくる曲を落とし込んでいっただけの様でした。ラストのborn slippyもぴったりです。オシャレである必要がないよ。斜に構えた演出は一見“オシャレ”風ですが、恐らく元のノベルのテイストぽくて、中身は寧ろ相当に泥臭くて共感できる感じ。全力疾走のシーンが繰り返しCMで流れていたので、スピーディなアクション満載のチャカチャカした映画かと思い込んでいたのですが、実際はかなりストーンド。何しろレントンはヘロインがお気に入りですしね。肝心の中身は、無いと言えば無いですし、“無い”を描いているのだとも思えます。ファーストシーンとラストを円環にして観客を内部化してしまう試みは、日本ではよっぽどのゲットー育ちでないと成立しない気はしました。個人的にはお気に入りではあるものの、特別な作品と迄は言えないかな、くらいの感じに収まりました。でも、うんと感化されてしまう気持ちも良く分かります。

〈2017年のトレインスポッティング〉
ファーストカットから泣いてしまいそうだよ。かつてはどん底で、窃盗の為に全力疾走していたレントンが、今走っているのはランニングマシンの上…。シック・ボーイはプッシャーからピンプに、というか単なる詐欺師に。ベグビーは絶賛お勤め中。スパッドは×ぬ事に決めた。
若さだけが取り柄だった悪ガキ達の20年後は、皺・頭髪・ビール腹。なんちゅうもんを見せてくれるんや…と落涙を禁じ得ません。因みにダニー・ボイルはアカデミー監督、オリンピックの総合演出。イングランドを代表する監督に成り上がったよ、20年。
正直、作品そのものの全貌は一度観た程度では捉え難いと感じました。前作より物語の枝葉の部分が広がって、深みが出たとも、ボンヤリしてしまったとも思えます。後半の焦点になるベグビーを巡る顛末は、ジャンル映画的なワクワクは感じましたが、果たしてトレインスポッティングにこれを求めていたかしら?と自問させられたり。いや、面白いけどさ。
以前はあれだけ毛嫌いしていたborn slippy の、予兆のフレーズが流れる度、大いに涙腺が刺激されました。そういえば今作で耳馴染みがあったのは懐メロ枠だけだったよ。20年。そして、エディンバラの街中で繰り返しフラッシュバックする、かつての彼等の姿。いつまでたっても同じ轍の上。
レントンに至っては、真に活き活きとするのは追い回されて剥き出しの衝動に触れた時だけ…。なんたるジャンキーぶり。あの、狂った笑顔!
間違った見立てかもしれませんが、幼馴染の彼等は自然と『インサイド・ヘッド』的に相互補完/依存していたはずで、その中の健全さの象徴の様なトミーが亡くなった時点で、その行く末は決まってしまっていたのだと思います。

物語の最も重要なメッセージは、中盤レントンがまくし立てる、人生の選択についてのアジテーションに集約されています。真摯で、切実で、誰の胸にも刺さります(最後の方とか、特に日本人に言ってんのかと思っちゃったよ)。あのレントンに、こんな事を嘴らせてしまうとは、この時代のなんと狂った事か…。皆が暇つぶしの人生を生きている。トレインスポッティングしている。

それにしても、結局あの悲観主義者のスパッドの選択が、彼等を(ベグビーすら)
救うという展開は本当にグッと来ます。そして、20年よりもっともっと遡り始まりの場所に戻るラストの切なさ…。彼等に未来は?
これはもう、是非『T3』も作っていただきたいですね。20年後、ついにベグビーは晴れてシャバに出られるのか?スパッドは幸せになれるの?シック・ボーイに家族は?そして、レントンの生え際は?生え際は⁇
あ、でも、20年後はきっとこっちがトミーとおんなじ所にいる気がするな。人生の選択なんて、そんなの上手く出来るわけないもん。

〈蛇足〉
恐らくは『トレイン・スポッティング』と初期ガイ・リッチーに大きく影響を受けたと思われる和製ルードボーイズ物『木更津キャッツアイ』は4年後で20周年の様です。これは『K2』やるべきなんじゃないかしら?岡田准一、全然変わってなさそうだなー。