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インビテーション/不吉な招待状のDDのレビュー・感想・評価

4.5
■シッチェス映画グランプリに輝いた圧巻のワンシチュエーションスリラー

ワンシチュエーション映画の多くは、最初から「ヤバい状況」で始まるものが多い。密室に閉じ込められる、置き去りにされる、招かれざる客がやって来る。「異常な設定」であるがゆえに、観客は第三者としてその恐怖を楽しむことができるのだが、『不吉な招待状』はまるで違う。「友人夫妻から自宅でのディナーに招待される」というごく当たり前の、誰にでもありそうな出来事がじわじわと悪夢に変わっていく巻き込まれ型スリラー。何かが起こっている、ただ、それが何なのかが分からないという状況には本能的な怖さを覚えずにいられない。

ごく普通の夫婦だったウィルとエレンは、ひとり息子を誕生会の日に不慮の事故で亡くし、立ち直ることができず別れてしまう。2年後、そのエレンから現パートナーのデヴィッドと連名で晩餐会への招待状が届く。場所は、かつてウィルとエレンが幸せな生活を送っていた家だ。ウィルもパートナーのキラを連れていくが、心はいまだ亡き息子のことでふさがっており、気乗りはしていない。迎えたエレンは、別人のように陽気で幸せそうだ。その様子を見てウィルはショックを受ける。物語は、ウィルの視点から、彼の覚える「ちょっとした違和感」を積み重ねながら進んでいく。

ウィルは息子のことである種のうつ状態にある。集まったほかの客は友好的で、混乱気味の彼を温かく受け入れる。そんなウィル目線でとらえられる「違和感」が、本物なのか、彼の心情が影響してそう見えるだけなのかが判別不能という見せ方に背筋をぞくりとさせられる。狂っているのは誰か?何気ない会話や行動が、後に明らかとなる途方もない事実とつながっていたと分かったときの空恐ろしさ。冒頭でウィルとキラが体験するある唐突な出来事にも実は意味があったという構成に舌を巻く。最後の最後まで状況すら把握できないという意味で、究極のワンシチュエーションスリラーだ。

美しいラストシーンとともに訪れる底知れぬ恐怖、その「衝撃」を味わい尽くすためにも、予告編などは観ないで鑑賞することをお勧めする。本当はこんなものを書くこともはばかられるが、同時に書かずにはいらないほどに興奮させられた。現在はNetflixでのみ視聴可能、ぜひに劇場公開してほしい作品。
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