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オールド・ジョイのaoaominamoのレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
4.4
焚き火の前でマークとカートが語り合うシーンよりも、夜が明けた後に無言でテントを片付けるシーンが、リアリティがあって印象的だった。夜は暗くて分からなかったけど、実はテントを張った場所の周りが不法投棄の物で散らかっていたりするのも良い。なんならカートがそこらへんで用を足してたりするのも良い。そして、バグビー温泉の一人用の浴槽にお湯を張って、服を脱いで、浴槽に入る、その一連の行為をじっと写しているのも印象的だった。マークが長ズボンを脱ぐのに手間取っているうちに、カートはすでに浴槽に入っている。半ば作業的な人の動きの細部に、その人らしさが見えてくる。加えて彼らの服装の色が対照的になっている(カート/マークに対して、赤/青のリュック、淡い/濃い色のシャツ)ところも細かい。
マークの、おそらく結婚指輪を錆びさせないために浴槽の縁に置いていた左腕が、カートに肩を揉んでもらうことで、力が抜けてお湯の中にすーっと吸い込まれていくシーンが美しい。それがそのまま彼の感情の象徴となっている。
ヨ・ラ・テンゴの曲をバックに、車が夜の道を帰路につく。一言も台詞が流れない中、なぜかカートが言った"Sorrow is a worn-out joy."の言葉がフラッシュバックしてきて涙が出てきた。最後、カートが街をさまよっていたのはどうしてだろう。穏やかなようで、静かな緊張感に満ちた一作。
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