カタパルトスープレックス

オールド・ジョイのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
3.9
この映画を観ていて浮かんでくる言葉は"drift away"です。ボクらはユラユラと水に浮かんでいて、近くにあったモノやヒトと徐々に離れていく。そして、新しいモノとヒトが徐々に近づいてくる。長い時間をかけて。

ケリー・ライヒャルト監督の第一作目"River of Grass"(1994年)は動かない話でした。本作は動かないように見えて、実は目に見えない速度でゆっくりと動いていて、気がつけば遠く離れていた話。ちなみにYouTubeなどで断片的にしか残っていない"Ode"(1999年)に続く、本作"Old Joy"(2006年)は三作目です。

ストーリーは若い夫婦の家からはじまります。夫のマークと妊娠中の妻の間には少し冷たい空気が流れてdrift awayを予見させます。そして、物語の主人公であるマークとカートの間は時間が経ちすぎていてすでにdrift awayして距離が空いています。まだお互いが見えるけど。

第一作目の"River of Grass"から本作の"Old Joy"の間も12年の月日が経ち、社会もdrift awayしています。車中のラジオからも民主党政権から共和党政権に変わったことにより、世の中がこれまでの間に大きく変わったことが示唆されています。"River of Grass"公開時の1994年は民主党のビル・クリントン大統領、本作公開の2006年は共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領の二期目でした。

ちなみに音楽は前作の"Ode"に引き続きヨ・ラ・テンゴが提供しています。オレゴンの自然ヨ・ラ・テンゴの音楽ってすごく合いますね。