YokoGoto

彼らが本気で編むときは、のYokoGotoのレビュー・感想・評価

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
4.4
<痛いほど溢れる母性が、ジェンダーとは何かを語りかける>

第67回ベルリン国際映画祭でテディ審査員特別賞(TEDDY Special Jury Award)を受賞した作品。
生田斗真さんがトランスジェンダーの役を演じた事が話題になった。

生田斗真さんがトランスジェンダー役という点では、あまりにも想像できなかったため、あまり期待せずに観たのだが、とても素晴らしい作品で驚いた。

トランスジェンダー役を男性が演じるという意味では、『リリーのすべて』のエディ・レッドメイン。衝撃が走るほどのすさまじい演技力を見せつけた、あの作品が思い起こされる。

あのエディ・レッドメインのような、細かな表情の演技はなかったが、それなりに生田斗真さんが役に馴染んでいたあたりは、監督のセンスを感じた。わざとらしいトランスジェンダーではなく、自然な女性らしさを表現できていたので、十分評価して良いと思った。

とにかく、本作は場面の作り方と、それにのせるセリフがとても良い。場面場面は、トランスジェンダーに対する偏見や苦悩みたいなものを表してはいるが、だからといって、何か(わざとらしい)メッセージ色が強い訳でもない。

そこがとても良い。
トランスジェンダーとは、心の性と生物学的な性が異なってしまった。
ただ、それだけの事。

普通に生きて、普通に恋をして、普通に愛情を育む。
ただただ、そこに居る『彼女』がつくり上げる空間に、ひたすら癒される、そんなお話なのである。

とくに、この映画で良かったのは、トランスジェンダーを『母性』という切り口で語った事。

十分な愛情を感じられない子どもと、子を産むことのできないトランスジェンダー。この2人の関わりから、女性とはなんなのか?しいては『性』とは何なのか?をひたすら考えていく映画である。

男性を好きになるから女性なのか。
母性があるから女性なのか。
胸があるから女性なのか。
子を産めるから女性なのか。

心の性別と生物学的な性別と、母性や父性という本能の性別。
この映画を見れば、どれもこれも画一的なものではなく、必ずしも当たり前のように、男女がわかれているという事でもないということを感じさせる。

“LGBTへの偏見や差別をなくす。”
そんなステレオタイプのようなものではなく、観た人の心の中に、いま自分が持っている性というのは、どういうものなのかを問いかけ、それぞれがトランスジェンダーを考えるキッカケになる作品であるということができる。

特に、本作の中で大きな役割をもつ「おっぱい」の使い方は、非常に秀逸でした。ぜひ、ご覧ください。
YokoGoto

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