MAKICO

彼らが本気で編むときは、のMAKICOのネタバレレビュー・内容・結末

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

事前情報一切無しで鑑賞。

現代の日本におけるLGBTへの偏見、ネグレクト、それに対する「現実」を突きつけられているような どうしようもない痛みもあるけれど、心がじんわり暖かくなる作品だった。

リンコ(生田斗真)とヒロミ(ミムラ)はどこまでも対照的だ。
実の娘にまともに料理も作らず、会話もせず、恋人ができれば子どもの優先順位は低い。娘のトモ(柿原りんか)はそんな母親に慣れているのか、ただただ黙って与えられたコンビニのおにぎりを食べている。
終盤の展開でヒロミが「わたしは母親である以前に女なの」と主張するが、リンコは「そんなの許せない。女とか母とかの前に、まずは子どもを守らなきゃ」と言い切る。
この台詞から、リンコが母親のフミコ(田中美佐子)から受けた愛情がどれほど深いものかが汲み取れた。
フミコは、トモと初対面の食事の場で「ひとつ言っておくけど、リンコを傷付けるようなことをしたら承知しないよ。たとえあなたが子どもでも容赦しない。」と言い放つ。トランスジェンダーのリンコをいかに子どもとして──娘として大事にし、何よりも優先して生きてきたかがわかる。
さらに、リンコがマキオ(桐谷健太)と結婚に踏み込む際
「マキオくんみたいな理解ある男性と出会えただけでもすごいのに、さらにお父さんは亡くなってるしお母さんは、その、何ていうか…」とも話している。その後のことばは慎んでいるが、要するにお母さんは生きてるけどボケてるし反対する人居ないじゃん!と言いたいのだろう。この発言にリンコは「やめてよお母さん!」と怒りをあらわにするが「ほんとのことでしょ?失礼承知のうえで…ラッキーって感じ!だって自分の娘(リンコ)がいちばんかわいいもん」と笑い飛ばす。
一見デリカシーが無いようだが、母親としてとてつもない強さがある。「ほんとのことでしょ?」には非常に説得力があるし、今の世の中ではまさに『ほんとのこと』だ。

ほんとのことと言えば、リンコとヒロミがトモをめぐって対立した際、ヒロミが「女でもないくせに。じゃあトモが生理になったとき正しく教えられる?どのブラジャー買ってあげればいいか分からないでしょ?」と言うが、これも現実なのだ。勿論、リンコは違うカタチでトモに色々なことを教えることができるが──。

テーマが重かったり、現実って甘くないと言うことを突きつけられるが、リンコ、マキオ、トモが3人でサングラスをかけてひたすら編み物をする場面はシュールでなんとなく笑えた。しかも編んでるものが「ボンノウ(リンコの男根)」という…。
桜並木を自転車で並走するシーンでは、リンコが「うおー!」と男性のトーンで雄叫びをあげる。元々は男性だってこと、隠す必要ないというあけすけな感じが男前だった。

最後に、生田斗真の演技力には感動した。
彼が生田斗真ということも忘れる…というか、本当に女性に見えた。仕草や話し方や母親然とした立ち振る舞い、もう素敵な女性だった。
わたしも無意識に彼に偏見を持っていたのかもしれない、「ジャニーズ」とか「アイドル」等、色眼鏡をかけていたのかもしれない。
恐れ入りました。素晴らしい役者さんだ。
わたしもリンコさんの作ったご飯が食べたい。
MAKICO

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