乙郎さん

エル ELLEの乙郎さんのレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
2.5
 ポール・バーホーベンの長編としては10年ぶりとなる作品。

 バーホーベンがやってくる。やあ、やあ、やあ。
 ポスターの無表情な女ににらまれた瞬間から映画経験は始まっているのだ。

 物語はイザベル・ユベール演じるゲーム会社の社長・ミシェルが正体不明の男に強姦されるところから始まる。
 かといって、この映画は復讐を題材にした映画に舵を取るでもなく、犯人探しのミステリーにも転がっていかない。
 事件が起こったからには、登場する男すべて疑いの目で見るほかないのだが、男はそろいもそろって駄目なやつばかり。
 つまり、このあたりは決して観客の求めるわかりやすい娯楽映画としては進んでいないわけです。まあ、それがバーホーベンなわけですが。

 僕がこの映画で特徴的だと感じたのが、最初観たとき人物の間の関係性がとにかくつかみにくいところ。
 たとえば、最初にミシェルの息子(ジョナ・ブロケ)が出てきたとき、『ピアニスト』('01)のユベールのイメージも相まって、年の離れた恋人なのかなーと思えてくる。ロベール(クリスチャン・ベルケル)との関係性も、単なるセックスフレンドなのかなと思っていたら、親友の夫との不倫だったというかなりゲスな事実が追って示される。母親のアイリーンが整形を重ねて極端な若づくりをしているがために、ミシェルと親子に見えないというのはその最たるものだろう。
 あと、関係性をつかみにくくしている理由の一つに、あまり会話が成立していないところもある。ミシェルとか、本当に人の話に答えるという話術をしていない。

 このように、関係性がつかみづらい中で、ミシェルは倫理的ではない生い立ち(殺人者の娘であり物ごころつかないうちに世間の奇異の目にさらされた)を経て、本人も非倫理的な行為の真っただ中にいる中で、非倫理的な欲望を具現化して大衆に売りつける仕事をしている、というのが大きな流れとなる。
 そのさなかで、表面化していない「非倫理的なこと」というのがいつくもあるのだけれども、それが真昼の闖入者によって白日のもとにさらされ、ミシェル自身が非倫理的なものと折り合いをつけていく、というのが物語の構造となるのだろう。

 こう考えると、ポール・バーホーベンというのは、画面に映るものの下世話さとは対比的に、倫理的な作家といえるのかもしれない。

 僕自身は、終盤に行くに従って収まっていく感じに、多少物足りなさを感じたのも事実である。
 
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