ルイまる子

エル ELLEのルイまる子のレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
5.0
ミッシェル、すごい女性でした。心から尊敬申し上げます。この人のようになりたい。結論から言うとレイプされた女のその後のサスペンスだ。

【ネタバレあり】

この映画はまず暗転、爆音の女性の悲鳴から始まる。明転、彼女はすくっと立って割れたガラスなどを片付ける一切動揺していない。何一つ変わらず平静だ。お風呂に入り、お寿司の出前を取る。翌日は何事もなかったかのように出勤。勿論その後防衛グッズを買ったり、射撃を部下から教えてもらったりするが、何も変わらない。犯人が誰か判らない、周りに居る男性全てが怪しい。この辺、監督は素晴らしい。最初からずっと引き込まれる。匿名メールや気持ち悪い動画が送られてくる、しかし犯人探しをするわけでもない。なぜかって人間って皆自分の欲望のためになんでもする卑劣で低俗な生き物だと知っているから。あたふた騒いでもしょうがない。この世はこんなもんだとわかっているから期待もしない。自分の身は自分で守るしかない。そしてまたレイプされる、この男がSMでしか感じないこと知っているのでああ、また来たわね、じゃ逆にこっちがレイプしてやろうぐらいの勢いだ。全く乱れることない達観した精神は生い立ちからくる。育ち方がそもそも地獄だ。父親が連続殺人犯だった。少女の頃散々自分の姿もテレビで放送されたから街を歩いていてもそのニュースを覚えている人からゴミを掛けられたりすることもあるくらいだ。だからって自分の悲運を呪ったりもしないし、自分の性愛の歪みは奥底に父から受けた継いだ残忍な血から来ることも知るがそれも平然と受け入れる。母親はまだ生きているがろくでもない色狂い女だ。生活費家賃全てミッシェルが引き受けている。今までずっとたった独りで、誰を信じることもなく生きてきたんだろう。一番すごいなと思ったのは、交通事故の時。車を脇道に乗り上げ血だらけで足を激しく負傷したが動揺しない。部下数人に電話を入れるが通じない、結局そこにあったチラシの電話番号から犯人の男へ電話する(これは偶然?他にチョイスがなかったから?よくわからなかったが)。もうこうなってくるとこの男も自分の仲間の一人なんだな、否、犯人が何度も「すまない、どうしようもないんだ」と書いたり言葉でも言っていたから、性癖について同情や共感または自分の残忍な血をシェア出来る相手と捉えていたのかもしれない。憎しみという感情があったとしても、彼女の中ではとんでもなく低温なんだろう。もう、この男をどう告発するかとか警察に差し出そうかとかは考えてない(そもそも警察を最も信じていないから)。彼女の中に常識的な善悪というものは存在しない。一つだけ弱点があった。息子のことだ。彼女の精神がイッテるからか、支配的過ぎたから息子は弱々しく母頼りで若い妻(彼女)からずっと叱咤されている。可哀想に母の心の闇を受け継いだ形で成人してしまっている。しかし、その息子を全く理解出来ないと言っていたが、事件を通じて彼の心の傷にやっと気付けたしお互いにやっと分かり合えた。息子は彼女が自分の子でない赤ん坊(黒人)を産んだのに大変可愛がっているし自分の子だと頑として受け付けない、このような態度も理解不能だったが、彼の心がやっとわかった。彼は子供のために自分が存在したいと思ったのだ。それは実の子ではないから余計にそうしたいのだ。それほどまでに愛を誰かの為に役立てたかったんだろう。自分が母を救えず無力だったし、母からは干渉は受けても愛は得れなかったから。やっと彼の気持ちが解った。そして最後に助けてくれたのはやはりこの一人息子だった。ミッシェルは終始低温で幸福さは微塵もなかったしこの事件も人生の些細な出来事の一つとして今後多分何もなかったように生きていくんだろうとは思うが、息子との繋がりを取り戻した事だけは救いだった。原作者はベティーブルーの作者らしい。「ベティーブルー」と言えば誰でも知っている80年代の大ヒット映画だ。当時感動して見たものだがどんなストーリだったか忘れている(かなり狂った女の物語だとは覚えているが)。しかし、イザベル・ユペールとはすごい女優さんだ。恐れ入りました。熟女の色気とは言っても、、、63歳でセクシーアイコンとはすごい。昔熟女のピークはせいぜい40代で「死刑台のエレベータ」のジャンヌ・モローが憧れの熟女スターだった、「ルードヴィヒ」のロミー・シュナイダーも多分40代だったし、「卒業」のMrsロビンソンだって50代でしょう。尚、「もう嘘をつきたくないの」と仕切りに言ってた、大変共感します。50歳過ぎてまで嘘ついて生きていたくないですよね。同感。
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