あまのかぐや

エル ELLEのあまのかぐやのネタバレレビュー・内容・結末

エル ELLE(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

むむむ。難解。怪作ー?

主人公ミシェル ― リシャール(元夫)― ヨガの先生(現恋人)

夫婦1 ゲーム会社の同僚・アンナ - 夫・ロベール(はげ)
夫婦2 近所の銀行員パトリック ― 妻レベッカ
夫婦3 ミシェルの息子ヴァンサン -妊娠中の新妻、ジョジー
夫婦4 ミシェルの母 ― 若い愛人

ざっとこんなところでしょうか、登場人物。

「変態勢揃い」といいたいところだけど、なんとなく、それぞれ「いるよなぁ」って理解できるアホな部分もなきにしもあらずで、
もっとも極めた変態は、主人公のミシェルにほかならない。

イザベル・ユぺールはいったい御年いくつなんでしょう。アクションシーンのごとき迫真のレイプシーン。

冒頭は突如、窓を割って押し入ってきた目出し帽の暴漢にレイプされる。音声だけで展開されるこの場面が、その後、何度も、ことあるごとに映像でリピートされます。

ふだんなら、こういうシーンは苦手で、もうこの冒頭だけでリタイアしそうなぐらい凹みました。

ところが、暴漢がたちさったあと、彼女は冷静に割れた食器やらを掃除し、そのあと警察に電話するのではなく、唐突にお寿司の出前を頼む。ホリデイロール?どんなんだー!?

そんな彼女の言動に呆気にとられ「?」を灯しつつ、物語に引き込まれました。

また同じようなタイミングで、自分の経営するゲーム会社の、部下のだれかから陰湿な嫌がらせを受ける。
幼少時、肉親による事件が報道された際、残酷にもさらし者になったトラウマもあり警察には頼りたくない。

彼女の前には、ちょっと普通では考えられないような、精神的に極限の酷い状況は降りかかる。過去も今も。

そんな中でも決して打ちひしがれていたり、悲劇のヒロイン的感がないミシェル。

「弱さをみせたら終わり」みたいな無理してる様子もなく、たんたんと自分の良きようにいろんなマイナス状況をひっくり返そうとするのです。たんたんと!


そして、なんかこう…みているうちに、レイプシーンの回想が繰り返されるうちに、ふつふつと、こちらまで力がみなぎってくるのですよね。なんだろ、この感覚。
催涙スプレーと手斧を買うときには、心の中で「よし!」と、そしてにやりとしてしまった。

犯人さがしがテーマではなく、ミシェルの本質が、まんま中心の物語。

警察にかけこむどころか、自分で犯人を捜そうとするところから常軌を逸しているのですが、
友人との会食の席で「突然暴漢に襲われたのよね」と堂々と話しだすミシェル。
敬虔なクリスチャン夫婦の旦那を食事中のテーブル下で誘惑するミシェル。
元夫の車のバンパーにガシガシぶつけて縦列駐車するミシェル。
会社の嫌がらせ事件の犯人を、こんどは精神的レイプで追い込むミシェル。

この女だいじょぶか?と思わせる数々の強烈なシーン。

でもその一方で、男性の登場人物がそれぞれに、ダメ男とか、アホとか、情けないとか、エロいとか、散々な描かれ方をしている。

だからミシェルが、唯一まっすぐで、彼女こそ正当のような気がしてくる。

彼女の闇?狂気?と見せて、もっと複雑な、低温な質感の「強さ」。

いったいなんでしょうね。不思議な映画です。ちょっと感想は難しいなぁ。好きとも嫌いとも言い難い。

でも、ふと気づくと、氷の微笑のシャロンストーン、ショーガールのエリザベスバークレーなど、
したたかで強い傲慢な女性(単純明快な「悪女」ではない)の系譜に、この主人公も置かれるのかな、って思った。さすがバーホーベン監督。

イザベル・ユペールの無表情で冷たくて折れそうな肢体と美貌が、逆の意味でしなやかにしたたかに、存分に活かされていました。若いぱいんぱいんの美形じゃだめなんだよな。
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