すずき

エル ELLEのすずきのレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
4.3
いきなりレイプシーンから始まる。
バーホーベン監督作と聞いて、生憎「ロボコップ」しか見た事のなかった私は、主人公がレイプ犯を見つけ出して復讐する、爽快レイプリベンジ物かと思っていた。
しかしこの映画、ひと味もふた味も違った。
レイプ犯は誰なのか、というミステリーも軸にあるけれど、主人公の周りの人間模様ドラマも並行して話を展開する。
「渡る世間は鬼ばかり」ばりに絡み合った人間関係と事件を、最後には全て丸く収めてしまう、そのストーリーテリングが凄く上手かった。

じゃあストーリーが面白かったのか、と聞かれると、面白かった事は間違いないが、それがこの映画の面白さの全てじゃない。
何でもそうだけど「何が面白かったか」を答えるのは難しい。(同様に「何がつまらなかったか」も難しい上に、否定には肯定する事以上に細心の注意が必要だ)
この映画のストーリーだけ話しても、特に目新しいお話ではないかもだから、「ああ、そういう話なのね」で終わっちゃうだろうし。
とにかく見てくれ!としか伝えられないのが残念。
ミステリーにありがちな、終盤どんでん返しが!とか、一件落着に見せかけて…とかそういう映画ではない。
ただただ、ストーリーの枝葉の広げ方に、その展開に目が離せなくなってしまう、純粋に「面白い」映画だった。

主人公の周りには(主人公含め)、基本的に性格に難ありな人物しか出てこないのは笑った。
特に主人公の息子、悪人ではないが色々と残念すぎる!
ほか、主人公の双眼鏡自慰シーンとか、元夫とその恋人の恋の顛末とか、所々ブラックな笑いがあるのもバーホーベン流?
その容赦ない人物描写にはトッド・ソロンズ監督にも似た切れ味を感じた。

でも主人公ミシェルは、性格に難ある問題人物という面以外にも、人としての強さも感じられた。
暴行された後もメソメソしたり、鬱になったりするわけでもなく、部屋を掃除して風呂入って、非常に落ち着いてる。
もちろん気にしていない訳はないので「次あったらブッ殺す」ぐらいは考えてるけど、男性が期待する「レイプ被害者」像から離れてるのが凄く強い!
それから仕事でも、元出版業界からゲーム業界に就任した女社長、という強いポジションで、当然社員からも反発を喰らう。
更には家庭にも色々と問題もあって、公私ともに敵が多い人なんだけど、それでも毅然とした態度で自分を通す人だ。
個人的には苦手な人物だが、彼女の強さは女性男性関わらず、見習いたいものだ。