タケオ

オクジャ okjaのタケオのレビュー・感想・評価

オクジャ okja(2017年製作の映画)
3.8
冒頭で緑の生茂る大自然の中で少女と灰色の巨大な生物が戯れる姿は、否が応でも『となりのトトロ』(88年)を彷彿とさせる。監督のポン•ジュノ自身も宮崎アニメのファンを公言しているため、意識しているのは間違いないだろう。一つ違うのは、この灰色の巨大生物オクジャが'子供にしか見えない不思議な生き物'ではなく'大企業が遺伝子操作で生み出した食用豚'だという点である。そう聞くと、まるで食料問題をテーマとして扱った作品のようにも思えるが、実のところ本作は、もっと普遍的で巨大なテーマを扱った作品だ。『グエムル-漢江の怪物-』(06年)の主人公家族は「娘はまだ生きている」という僅かな希望を信じて異形の怪物や事実を隠蔽しようとする軍に立ち向かい、『母なる証明』(09年)の母親は「息子は無実である」と信じ、孤立無援で殺人事件の真相を追いかけた。ポン•ジュノ作品に登場するキャラクターたちは皆、不条理な世界の中で僅かな幻想にしがみつこうともがいている。本作だってそうだ。連れ去られたオクジャを救おうと奔走する主人公ミジャ(アン•ソヒョン)は、次第に動物愛護団体や企業の争いや陰謀に巻き込まれていく。オクジャとの友情を信じる彼女は、食料問題のみならず'社会というシステムそのもの'と対峙することとなる。無垢な少女のイノセントの崩壊、大人社会へのイニシエーション。普遍的ながらも深淵なテーマだ。その全てを冷静に見つめ綺麗事で割り切らないという過去作でも見られたポン•ジュノの強固な姿勢は、本作でもしっかりと貫かれている。ビッグ•バジェット作品ということもあってかポン•ジュノ作品にしてはやや大味気味ではあるが、それでも本作が優れた作品であることに変わりはないだろう。
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