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花芯のtakのレビュー・感想・評価

花芯(2016年製作の映画)
3.5
(映画評とは言えないかも)

男女の関係でひとつふたつステップが進むと、感情だけでなく身体の問題が必ずついてまわる。それはどんなに言葉を尽くしたところでも、避けては通れないものだ。この映画でも、はぐらかすような相手の発言を、「言葉を探そうとしている」とヒロインは責める。綺麗ごとにもできないし、美化することもできない。そこにあるのは、一緒にいることの嬉しさと心地よさ。感覚、欲望の問題。

「花芯」は、男と女の間にある、惹かれあった時の"どうしようもない"感じが、きちんと言葉で表現されている映画だ。村川絵梨の熱演ばかりがクローズアップされがちだけど、けっこう台詞が心に残る。この"どうしようもない"感覚を映像で示す作品ならこの世には山ほどある。残念ながらそのほとんどは目の前で展開される行為にしか、僕らは目が届かないのが現実。なぜならそこにある気持ちは、言葉で表現しようがないからだ。そこに理屈なんてない。

「花芯」も同様に映像表現が優れているけれど、他の映画以上に言葉が残る。
「君という女は体中のホックが外れている感じだ。」
例えが絶妙。推敲を重ねながら選び抜かれた言葉に違いない。原作はその内容から瀬戸内寂聴が文壇を一時期追われたという小説。未読だが、子宮小説と呼ばれた原作には他にどんな言葉が並べられているんだろう。

昔の話。知り合いの校長先生に
「映画を観る人は恋愛ができる人です。takさんもその1人。」
と言われたことがある。先生、ちっともお褒めに預かるような遍歴もございません。僕ら映画ファンは、スクリーンを通じて人様の恋愛をしこたま観ている。確かに映画で恋愛について学ぶことはたくさんあるだろうけれど、それはともすれば両極端なもの。恋愛の成功と失敗。秘めることの意義と口にすることの意義の狭間のジレンマ。思いをぶつけることの尊さと相手を失う悲しみ。失いたくない苦しみ。言えずのアイ・ラブ・ユー。そして欲望で語られる領域を超えた先にあるもの。映画で恋愛上手になんて決してなれない。もしかして、観すぎているのかなw。

でも、恋愛をぬきにしても、いろんな場面でその人の気持ちを想像できるのは、映画で学べて日々に役立つことの一つだと思うのです。察する力がつくのではないかと。

「花芯」で描かれる時代の変わり目の男と女。登場人物に共感できるかどうかは別にして、映画としてはけっこう好きかも。ひたすら無言で行為を見せつけられた、同じ安藤尋監督の「海を感じる時」よりも格段にいい。村川絵梨の芯のあるヒロイン像、頼りない若造役がいつまでも上手な林遣都、怪しげな毬谷友子、クールな着こなしの安藤政信。役者も上手い。
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