ベルサイユ製麺

しゃぼん玉のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

しゃぼん玉(2016年製作の映画)
3.8
予告を何度か目にして、まあ良さそうでは有るけどスルーでも良さそう…と思っていたのですが、ツタヤでパッケージの背表紙が鋭く目に飛び込みました!

林遣都×市原悦子

…な、なぬ⁈ 林遣都“かける”市原悦子?知らんかった!そんな概念有るんかよー!観る!!
ちなみに窪田正孝の他に林遣都という人がいるのだと、比較的最近知った。…その認識でどうやって『ハイ&ロー』観てたのかは我ながら不思議です。

オープニング、ブラックバックに

“協賛 宮城県北部広域行政事務組合 椎葉村”
の文字!やったあ!地方創生映画でも有るとは!わはは、儲けたなぁ。

スローモーション。土砂降りの雨。
ガード下の、緑に照らされた地下道を抜けようとする女性。草むらから男が現れ、後を追う。手には何か刃物の様な…。
揉み合う2人。男はひったくりの様だ。男の表情。ボサボサの頭、髭面、目を向いて必死の形相。抵抗する女性が、急に力なく倒れこむ。
男は逃走…。

ギャスパー・ノエ『アレックス』を想起させる不吉極まりないな構図ですが、そういう嫌さは無くて、そんな事より寧ろ印象的なのは“しっかり作ってる”感です。撮影も演出も編集もテキトー感が無い。…これは、悪くないのでは?

夜の山道を走るトラック。助手席にひったくり男(林遣都)。血がこびりついたナイフを手に運転手を脅し逃走していたが、隙を見て車外に放り出される。夜道でやる方なく、また緊張からか疲れも有りそのまま眠ってしまう。
朝、草むらの中で目を覚ます男。眼下には壮大な山脈とその間を這う雲海のパノラマが広がる…。何処だここ?
トボトボと山道を下ると道の真ん中に横倒しになった原付バイクが。これ幸いと駆け寄ると、草むらからか細い声…。視線を向けるとそこにはあちこち怪我した老婆が倒れていて、助けを呼んでいる。バイクを奪って逃走か、ガラにもなく老婆を助けるか。暫し悩んだ後…。

まあ、助けるんですけどね!
で、感謝しきりの老婆(市原悦子)はなーんにも聞かず男を自分の家においてやります。バリバリの山村のゴリゴリの古民家です。周囲のばあちゃん仲間が「あんれわげぇおどごだ」的に地元の郷土料理山盛りでもてなします。無愛想なままモリモリ食べる男、イズミ(自称)。うめぇ…。
そう、上手いの!淀みなく進む物語。風景の美しさを余すとこなく写し取った撮影。地元の良さをさりげなく盛り込む手腕。演技も自然にそれぞれのキャラクターを印象付けます。トータルでのこなれ感が半端ないよ!
いや…。キャラクターに関して言えば、田舎の老婆に市原悦子は完全にチートですね。だってそうだもん。林遣都さんは、役柄がコミュニケーション不全ぽいので技術的な事は計りかねますが、佇まいが良い!ボッサボサの頭で眉をしかめ陽の光を浴びながら横たわっている姿は、若かりし頃のムラジュン(村上淳をムラジュンと呼ぶクラスタがあります)みたいだなと思いました。怖い爺ちゃん役の綿引勝彦も良い!コレが國村隼だと別のニュアンスが立ち昇っちゃいます!
イズミ(自称)は家族の温かさと無縁のまま育ち、その荒みきった心を解きほぐすのが、ばあちゃん、近所のじいちゃん、村の人々、豊かな自然、美しい風景という訳です。シンプル構造、間違ってない!…ちょっとノイズになるのは“日本昔ばなしのひたすら怖いエピソード”とか“コクソン”“アンチクライスト”とかの持ち前のネガティブイメージなのですが、こればっかりはしょうがないの。
物語は、少しづつ心を開くイズミと村の人々の交流を描きながらゆっくりと(しかし何故か退屈しない!)展開します。自分でお金を稼いだり、初めて女性に恋心を抱いたり、じいちゃんと二人で高台からtworesyongしたり。…しかし彼は逃亡者な訳で、その辺りをめぐる顛末が、この物語の優しい・長閑なだけでは無い意味性の部分になってます。全く奇をてらわない、ひたすら真っ当な結末。“感動の嵐!”“四度泣き!”…なんて事は別に無いです。でもなんの不満も無い。

面白がって地方創生シリーズとか言ってしまいますが、そういう不純な(?)枠組みに囚われる事のない、超普遍的な正解映画の一つだと思います。運良く地元が舞台だったりした日には毎日毎日リピート再生しちゃうでしょうね。
おススメの仕方はちょっと難しいのですが、田舎に帰る時間が無いなーなんて時に観てみてはいかがでしょう。無い時間をやり繰りして帰省したくなる事請け合いです。
縁側で、デッカいおにぎりモグモグ。イイなー!

ネタバレ!
↓ ↓ ↓

主題歌が長渕剛でも童謡でもありません!

…ノイバウテンです!
嘘。嘘つきは泥棒の始まり。吾輩もひったくりして、なんやかんやで椎葉村の一員になりたいであります!