ゆみゆみ

しゃぼん玉のゆみゆみのレビュー・感想・評価

しゃぼん玉(2016年製作の映画)
4.5
主演の林遣都も相当良かったけど、なんと言っても市原悦子の良さよ。

【あらすじ】
女性や老人を狙って引ったくりを繰り返していた伊豆見翔人(林遣都)は、引ったくりの際に人を刺して、九州宮崎の田舎町椎葉村に逃げ込む。そこで一人暮らしの椎葉スマ(市原悦子)が道端で怪我をしているのを発見する。


まず、嫌々ながらも怪我したスマ婆ちゃんを助けた伊豆見が生来の悪じゃないこと、ちゃんと見抜いてるスマ婆ちゃん。
「坊はええ子じゃ」
何度も繰り返し伝えてくれる。人は優しくて良い言葉に触れれば、自然と馴染んでいく。怒りや苛立ちの悪い言葉には反発するもの。ホントに基本のことなのに忘れがちだなって思った。

伊豆見の箸の持ち方は原作になかったが、林遣都の提案で生まれたそうで、その後に他の登場人物とも絡むエピソードの一つになった。

『本作は食事のシーンが多い。食事のシーンは人間性が出ると考えた林は、原作には描かれていない箸の持ち方について監督に提案した。「スマさんの家に来たばかりの伊豆見は食事を食料としか思っていないんです。彼なら箸の持ち方も気にせずに食べるだろうと思って。それに、村で美知(藤井美菜)に出会って初めて同世代の異性を意識したときに、そういった面で恥ずかしいという感情がリアルに描けるんじゃないかと思ったんです」。この提案に対し市原は、それならば私は箸の持ち方を指摘するシーンを作って欲しいと監督に申し出たそうだ』(ぴあ映画生活より)

こういう提案ができ、尚且つ共演者がそれを膨らませてくれるって、凄くいい現場なんじゃないかな。
この箸の持ち方についてはこの作品の中で相当象徴的なエピソードになったと思う。孤独に生きてきた伊豆見が、いわば自分の粗悪な部分を他人に指摘され、さらにそれを恥ずかしいと思うまでになるのは、伊豆見の心の変化を表すのにとてもわかりやすく理解しやすい象徴になったと思うから。

あと、綿引勝彦演じたシゲ爺のセリフはもっと多くて割と饒舌だったそう。でもそれも綿引さんの提案でセリフをどんどん削っていったらしい。寡黙なシゲ爺の方が伊豆見には沁みた気がしたし、あのシゲ爺じゃなきゃダメだなって観終わったらシミジミ思った。ラストはシゲ爺とだもん。アレはとても重要だ。

この作品は好きだ。椎葉村に行ってみたくなったし平家祭りも見てみたい。
伊豆見が「いい天気だなぁ」と一人呟くシーンが二度出てくるけど、田舎の良さは普段気付けない当たり前の物が、温かく感じたりできるとこだなと思う。私も一人で田舎のお婆ちゃん家に夏休みの間ずっと居て、川行ったり散歩したり本屋行ったり、ただぼんやり過ごしてたんだけど、そういう人生の息抜きというか、休息って必要な時がある。
伊豆見にとって椎葉村が息抜きどころか人生の転機になる場所だったことは、ある意味でそこに辿り着いたのは奇跡だったんだろうな。
罪を償うのはただ刑期を終えればいい訳じゃない。本当に心から自分の犯した罪に慄き悔いて自責の念に駆られて初めて償いになると思う。

ホントいい映画でした。
ゆみゆみ

ゆみゆみ