MasaichiYaguchi

ティエリー・トグルドーの憂鬱のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.8
「母の身終い」のステファヌ・ブリゼ監督と主演のバンサン・ランドンが再びタッグを組んだ本作を観ると、フランスが舞台ではあるが、「明日は我が身」という気分になる。
「母の身終い」の時もそうだったが、バンサン・ランドンは疲れ切った中年男性の悲哀を漂わすのが上手い。
彼が今回演じるのは、長年エンジニアとして勤めた会社から解雇されてしまった50代の主人公ティエリー・トグルドー。
この中年男性には養わねばならない妻や身障者の高校生の息子がいるので、再就職すべく悪戦苦闘する。
日本の失業率は以前から比べると大分改善されたと思うが、就職市場は新卒者優先で、手に職を持つ者や実務能力の高い人を除いて再就職の門戸は狭く、自分の過去の経歴や能力を活かす場や遣り甲斐が感じられるような仕事、賃金をはじめとした雇用条件を満たす職業に就く中途採用者は一握りなような気がする。
ましてや会社という枠組みの外に出された中高年にとって再就職のハードルはとても高いと思う。
何とかティエリーが在り付いた仕事はスーパーの警備員。
この警備員の仕事は、スーパーの買い物客だけでなく、職場の内部不正までも監視する役割を担っている。
この映画はドキュメンタリータッチでティエリーの目線で描かれるから、彼が遭遇したり、経験したことを観客もリアルに体感することになる。
その“体感”から心に覚えるのは“懲罰社会”の非情さ。
昨今の企業や団体は何処でもコンプライアンスが叫ばれていて、信賞必罰が徹底されている。
元いた会社から不条理に解雇されたティエリーが、今度は他者の粗を探して断ずる側に手を貸すという皮肉。
弱者や如何なる事情があるにせよ、“魔が差した者”を斟酌なく断ずる社会のシステムを浮き彫りにした本作は、ティエリーだけでなく観ている我々も憂鬱にさせ、考えさせられます。