ベルサイユ製麺

ハートビートのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ハートビート(2016年製作の映画)
3.3
行きつけのツタヤの店長さんに(準新作限定で)オススメを聞いてみました。いきなりの質問に5秒ほど逡巡した結果、「…これは良かったですよ?」と挙げてくれたのが今作です。…正直、思ってもみなかったよ。絶対自分では選ばなさそうなタイトルとジャケットの雰囲気です(皆さんもジャケット画像を5秒くらい見つめてみて下さい)。でも「そうですか」と返事だけしてワイルドスピードとか借りたらそれは鬼です。春来る鬼。そうか。オススメを聞くという事は、いわば果たし合いなのですね。こっちから仕掛けた勝負。えーえー、観てやりますよ!観りゃあいんでしょ⁈(謎の心理)

ニューヨークの地下鉄構内で一人孤独にバイオリンの腕を磨くコミュ障イギリス人青年ジョニーと、一流のバレエダンサーになる為にニューヨークの芸大に入学したばかりのルビー、たまたま出会った二人が共通の目標の為に、歩み寄り、時に衝突などするうちに、次第に強く惹かれあっていくのでした。ちなみに青年のアパートの階下にはたまたまダンスチームがたむろしていて、たまたま全員良い人なので、凄く助けてくれます。

なんというか、マンガだなコレ。しかも少女マンガと少年マンガのコンパウンド。なので、端的に言えば凄くエモくて、燃えつつキュンキュン。エ燃キュンです。ダンスと音楽と恋と友情・努力・勝利、若者文化の全部のせです。そんななのにも関わらず、意外とコンパクトにまとめられていて胸焼けしません。編集がMV並みに音で割られていて観ているだけで心地良いですし(地下鉄構内のダンスバトルシーン格好良いです)、キャラクター内面を複雑化させていないのもお話のトーンに合っています。題材に適した仕上がりで、全然悪くはないと思います。勿論いろいろ気になる点はありますが、そんなの、高校生カップルがイチャコラしてるのに文句言うみたいな物ですからね。寧ろ温かい目で見守りましょう。中盤で飛び出した「酷くセクシー」というワードには結構ぐらぐら来ましたけど…。
個人的にちょっとキツかったのはバイオリン+コンテンポラリーダンス(ヒップホップ)の組み合わせというアイデアです。伝統と流行のツギハギ、例えばロックにオーケストラが入るとか、マンガを歌舞伎の演目にするとかが凄く苦手で、やっぱりアメリカの一般層って凄くアレだなぁと思いました。あと今作とは無関係ですが、ダーレン・アロノフスキーの『ブラックスワン』と『レスラー』って元は1つの話だったと聞いた事があって、今作をうんと重く、悲劇的・刹那的に描くと近い物語になったのでは?なんて思いました。

まあ、トータルで見れば、健全で、分かりやすくて、裏切られない、他人に推薦しやすい作品ではあります。…そして、その事はそのまま、ツタヤの店長さんにとって自分は“健全で分かりやすく、単純”な作品が好きそうな人物だと(約5秒間で)推察されたという事なのです…。なんか、凄く負けた気がする…。そもそもの勝利条件が分からないけど。
皆様も一度ツタヤの店員さんに漠然とオススメを聞いてみてはいかがでしょう。映画がホントに好きな店員さんなら、そういうのを厭わないのではないかと思うのです。自分の客観的イメージが把握出来るかもしれませんし、思わぬ好みの作品に出会えるチャンスかもですよ!仮装とかして聞いてみるのも良いかも。

ところで今作の製作国、ルーマニアってなってますけど、そうなんですか?謎めいてますね…。