映画大好きそーやさん

動物農場の映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

動物農場(1954年製作の映画)
3.9
繰り返される愚かな歴史を寓話的に描く、社会派アニメーション!
GEOにてたまたま目が付き借りたのですが、予想以上にクオリティの高い作品で驚かされました。
杜撰な管理を行っていた農場の主人を追い出し、動物たちが主体となって「動物農場」を経営していくというシンプルな筋書きでありながら、随所に人間への皮肉が散りばめられ、社会に切り込むようなテーマ性を秘めた力強い1本になっていたかと思います。
順を追って良い点を書いていきますが、まず1番に言えるのはアニメーション技術の高さでしょう。
ディズニーを思わせる、生き生きとした動物擬人化描写が豊かで、それだけでも一見の価値を見出すことができます。
冒頭で、賢い老豚のキャラクター、メージャーが登場するのですが、彼の一挙手一投足、表情筋から黒目の動き方まで、本当にその場にいると思わせる説得力をもって描写されており、凄い!の一言に尽きます。
アニメーション技術という観点において、よくTVアニメや劇場アニメを観る私を唸らせる点は動物たちの描写だけでなく、煙や炎のアニメーション等にも並々ならないこだわりを感じることができます。
煙、炎それぞれを一般的に広まった方法で描いていたとしても、既視感があるものになってしまい、特筆すべき点とわざわざ粒立てて挙げることもありません。記憶にも残らないと思います。
ですが、本作においてはそれらが漫画的誇張とでも言うべき独特な手法で動かされており、ただ通り一遍の美術では終わらせないという気概を受け取ることができます。
また、アニメーション技術と連続している要素ではありますが、演出面も目を見張るものを拝むことができます。
作中何度か繰り返される影のイメージは、その場面場面における最適なかたちで抽出され、時に思いの強さを表現し、時に純粋な怖さを表現するのに活きていました。
農業のシークエンスの小気味よさは映像、正しくアニメーションを観るという行為の本懐に触れていると感じさせるほど、楽しさを覚えさせてもらえるものでした。
カメラでは捉えず、音だけで伝える武映画にありそうなクールな演出も良かったですし、最後の最後に「動物農場」を支配するにまで至った豚のナポレオンがとあるものに見えるという演出も、本作における最大の皮肉になっていて最高でした。
アニメーション技術、演出だけでなく、要所要所にあったコメディ描写もキレがあって、何度も笑わせてもらえました。
1例挙げるとすれば、「動物農場」と名前を付けて経営するに当たり、戒律というものができるのですが、「4本脚は良い 2本脚は悪い」という文言に鶏から反発が出て、豚たちは翼を脚と考えればいいといった謎のフォローで宥めていたのは、流石に吹いてしまいました。
と、ここまで良い点を書いてきたのですが、悪い点もあるにはあります。
細かな作画ミスは1度観ただけでも何個か見つけましたし、全編に渡ってナレーションが多用される作風も、もっとアニメーションの力を信じても良いのではと思ってしまいました。
後半の、馬のキャラクターであるボクサーが身を粉にして働くシーンにおいて、「感動的なのはボクサーだ」と言ってしまうのは少々冷める部分ではありました。
また、終盤に豚たちが先頭に立ち、他の動物たちに勉強を教えるシーンがあるのですが、いつ豚たちが知識を身に付けたのかと、単純に疑問に思ってしまいました。
とはいえ、アニメーション作品として高クオリティなのは間違いなく、ぜひ機会があれば観て頂きたい1作ではあります。
総じて、アニメーションと演出の質に圧倒される、笑えて泣ける寓話的社会派アニメーションの良作でした!