誰もがどこかに古い傷を持っているとは言うものの、こんなにも壮絶な男はなかなかいない。リーも、奥さんのランディも、耐え難いほどの道を歩んで現在にいたったのだろう。兄のジョーも、その奥さんエリーズもしかり。どこかで心を乱され、自責の念に苛まれ、それでもなんとか生きていく。
それは決して過去を乗り越えて豊かな未来に向かっているとは限らないし、まして幸せな明日がやってくるわけでもない。
それでも、生きていくしかない。最善の道を必死で選び取って。
清算、贖罪、妥協、さまざまな感情が渦巻いていることだろう。そんな一人一人の思いを情感たっぷりに描き、観るものに訴えかける、静かな静かな映画だ。
マンチェスターバイザシーなんて場所があることすら知らなくて、東海岸の小さな街ながら幾度も映画の舞台となっており、西部だけでなくこんな田舎もあるんだな。アメリカってほんとに広い。
で、伝えたいことはすごくわかるのだけれど、映画としては好みではなかった。ある事件をきっかけにして皆それぞれに哀しみを抱える。ただ、その前からリーは奥さんに邪険にされ、抱きついても嫌がられるばかり。ランディのほうも旦那の悪友にヒステリーを起こして言いたい放題。
結果的にこのことが直接的に事件につながるからこそ2人は重荷を背負うことになるわけだけれど、そもそもの2人の関係性やその出自、性格の描写が圧倒的に不足している(としかボクには見えなかった)ため、その後のツライ日々、それを乗り越える痛み、再会して心を吐露するランディもそれを受け入れられないリー、どれにも感情移入することが出来なかった。
なんで?なんで?って思ったところでそんな杓子定規にいかないからこその人間なのにね。
抱えたものを払拭するだけが答えではないし、ありのままを受け入れる切なさも理解できているつもりでも、この人たちがなぜこうなってしまったのか、なぜこんなふうにしか出来ないのか、というところを理屈で考えようとしてしまうのが良くないのだろう。
つらい思いを抱えながら何かと戦っている人がいたとして。
理屈じゃなく、ただ黙って寄り添うことのできる人になるにはまだまだ修行が足りないなと、少し後ろめたい気持ちにさせられた。