木葉

マンチェスター・バイ・ザ・シーの木葉のレビュー・感想・評価

3.7
人生には乗り越えられることしか起きない、とか沢山の困難を乗り越えた人にはそれだけの徳があるのよとか言うけど、本作を観て、あえて乗り越えないことも、あるんだと思った。
終始、曇った表情の、虚ろな目をした、ケイシーアフレックがいい。彼はこんな、凝った癖のある演技をしてたかなと思ったほど、過去の重たい荷物を背負う役が、似合っていた。
辛い過去から、逃げ出すように、街を出て、便利屋の仕事をしていた、リーに兄の訃報が入る。故郷に戻ると、過去と向き合わざるを得なくなる。
リーは心を閉ざしたままで、頑固で、イラチで、繊細だ。そんな彼も甥には、心を開く。甥と、兄の存在が、彼にとっては大きいし、生きるヒントになってくる。皆、誰しも問題を抱えている。誰かに話すことで、再生とまではいかないが、心の荷物が軽くなる。人に吐き出す、ぶつける、これが生きる上で本当に大事だと感じた。あえて、乗り越えない、心に傷を抱えたままでも、生きていく生き様も、人生なんだな。
しかし、尺が、長いと私は感じてしまった。
一歩ずつ前に進まなくても、ただ、生きていくことが出来たらいい。


再考。観た当初は、何も心に残らなかったが、まるでそれは自分自身を観ているような映画だったからだ。人は挫折をしたり、大切な人を失ったり、大きな病気をしたり、傷付けられたり、大きな痛みを味わったり。それによって心に大きな穴があいたり、心が壊れる。
痛みや苦労をバネに頑張ろうと思うけど、心ってそんな単純なものじゃない。
心が壊れたままの自分を大切にする。
乗り越えられないことを肯定し、ありのままを受け入れる。
時間が解決出来ない事も多い。
痛みや苦しみは結局その人にしか分からない。
この映画は、心が傷付いた人に寄り添う映画であると同時に過去に囚われ、後悔に縛られてる人たちへの心を解き、楽になるきっかけを作る映画なのかもしれないと思った。
木葉

木葉