星ワタル

マンチェスター・バイ・ザ・シーの星ワタルのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

見ながらずっと思っていた、「彼が救われてほしい」と。

だけど、この作品は安易なハッピーエンドを観客に与えてはくれない。

主人公リーはちょっとお調子者だけど、兄弟を愛し、家庭を愛している普通の男だったのだ。ある事件が起きるまでは。

唐突に挟まれる回想シーンは、もがきながら生きる主人公の脳内を体感するようだ。

リーと対照的な存在として描かれる甥のパトリックは、悲しみも怒りも歓びもみずみずしく表現して、16歳という子どもと大人の中間らしく、人生を謳歌している。
明るく輝いているパトリックはリーには眩しすぎるが、同時に心を開く存在でもある。

後半、元妻が心からの許しを請い、同時に彼を赦す場面がある(ミシェル・ウィリアムスはオスカーノミネートも納得の熱演。)

でも、それは映画的なハッピーエンドには結びつかない。現実世界と同じように。

最終的に自分を許すことができるのは、自分自身しかいない。
そしてこの主人公は、生涯自分を許すことができないのかもしれない。

役者陣はアカデミー賞も納得の演技。
ケイシー・アフレックは本人と被る部分も多いのではないかと思うが、ほとんどセリフで感情を表現できない難しい役を完全に自分のものにしていた。

監督のケネス・ロナガンは、日常的なシーンにリアリティを持たせるのが上手いと思った。序盤の病院のシーンから現実感があり、見ている方が作品にどんどん感情移入していく。
死んだ兄の存在を常に感じるのも、演出の力だと思う。


ラストカットが素晴らしい。
人はひとりぼっちでは生きていけない。
どんな人生でも"自分のそばに誰かがいる"ということは救いなのだと思った。
星ワタル

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