成川ジロー

マンチェスター・バイ・ザ・シーの成川ジローのレビュー・感想・評価

4.3
とても悲しくて辛くて全てに背を向けていた男の、ほんのちょっと前に進む再生の話。
お話は地味だが画作りが上手いのと風景がとても綺麗だったりするので見ていて飽きなかった。そんな綺麗な画の中で、不安定な主人公のリーが強く浮き彫りになる。
正直前半は何がリーをこうさせているのか、一体リーは何がしたいのか全然理解ができないし感情移入もできない。今の時間軸に時折過去回想が挟み込まれる作りなのだが、前半はやはり回想も幸せそうなリーと家族が写るのみで、今のリーの生気の無さみたいなものが一層不気味に写る。
そして回想で決定的な事件が起きていたことがわかった瞬間、リーの今の姿に恐ろしいリアルさを感じた。何をしたいのかわからない。そりゃそうだ。多分何もしたくないんだと思う。多分死にたいんだろうけど親や兄貴が死ぬなと言うから生きているだけで、自分を許せず幸せの享受から自分を遠ざける。幸せになる資格なんてもう自分には無いと思ってるだろうし、優しくされるのすら辛いかも。生ける屍みたいな感じ。別に罪を許されたいわけでもなくむしろ罰されていた方が楽なのかも。警察署で取ったリーの行動に涙が出た。
後半の元妻との問答も本当に見ていて悲しくて、勿論リーはこれから幸せになれそうな元妻に何にも恨みは無いしむしろ嬉しいんだと思う。ただ、甥にも語ったとおり、辛すぎる。自分で自分をまだ許せてないだろうから謝られるのも辛いだろう。この時のケイシー・アフレックの演技たまらない。ミシェル・ウィリアムズも良い。その後酒場で騒動を起こして泣くリーがリアル過ぎる。
最後のキャッチボールはそれでも生きていくことに少しの明るい希望が見えてとても良かった。
この映画の冒頭で、リーは再び家族を一人失う。でもそのことから一人、同じ喪失を体験した家族を一人得て、自分の意志ではないながらも家族の責任も得る。生に意味を得たリーは少しだけ前に進めたんじゃないかと思うし、これから先も二人で少しで良いから幸せになって欲しい。


悲劇のシーンの音楽の使い方だけ良くなかったと思う。
サメギャグが好きだったり、バンドが笑えるほどダサかったり、いきなり蹴破って入ってきたり、途中途中変な笑いがあるところは結構好き。
成川ジロー

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