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マンチェスター・バイ・ザ・シーのエイブのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

①冒頭、船上ではしゃぐ主人公リーと兄の甥っ子パトリック、船を操縦する兄ジョー。和やかな過去の場面から始まる。

過去の場面では笑いの絶えない生活を送っていたが、娘を自らの過失で失ったことで沈んだ重苦しい表情となる。

彼がまた笑いを取り戻すのは船上のパトリックとガールフレンドが舵取りではしゃいでいるシーンであった。

②警察署の取り調べ室で、火事についてリーが取り調べを受ける。取り調べを終え部屋を出ると、思い余ったリーが警察から拳銃を奪い、自らの頭に引き金を引いて自殺しようとする場面があった。

パトリックは父が亡くなったあと、思い出の船を手放したくない一心で、決して安くはない費用がかかっても維持することを、船を売ってボストンに行こうとするリーに訴える。最終的にパトリックの思いを汲んだリーは、兄の部屋の猟銃を売って船の修理費に充てることを提案する。銃は自殺のための道具ではなく、パトリックの、そして自分の大切な思い出を守るための道具になっていた。

③久しぶりにマンチェスターバイザシーに戻ってきたが、どこへ行こうにも帰る場所なんてないと思っていたリー。それは元妻の現在の想いを聞いたところで変わらない。

リーは過去に思いを馳せる。火事による失意の中、ボストンに向かい、新たに住むことになる空っぽの部屋で、兄と甥に当たり散らすリー。
兄はそんな様子も温かく受け止め、一緒に家具を買い、大きなソファーを置く。そしてリーのソファーシーンは映画において、何度も反復される。いつの間にか、空っぽだった心が、ふんわりとしたソファーのような柔らかさに包まれて、居場所がないと思っていたリーにとって、あの部屋が特別な場所になっていた。だからこそ、パトリックを呼んでみたくなったのかもしれない。それはパトリックにとっての船のような存在にも思えた。

④ラスト、二人は歩きながらゴムボールをパスし合う。リーの投げたゴムボールはあらぬ方向へ行ってしまう。パトリックはそれを追いかける。リーは言う、「放っとけ」と。でもパトリックはボールを追いかける。決して「放っておかない」。

この映画の人々は、みんなリーを気にかけている。それは初めて会った人でも同様だ。それが決して本人と上手く結びつかなくても、本人が拒絶しようとしていても、放っておかない。それが大きな効果や意味を持つことはなくとも、ただ気にかけて、ただ寄り添うことの大切さを教えてくれる。

気になったところ
・画面の抑制された演出とは異なり、音楽の使い方が過剰気味だったのが気になった。VICEの監督インタビューを読んだら、監督の意図があり、地上の出来事とは関係のない、「天上のよう」なものをイメージして音楽をつけたようだ。「喜劇と悲劇の上を浮遊しているような楽曲」を合わせて物語に広がりを持たせたかったということで、納得。

その他
・曇天
・ユーモアのある会話と間 車
・パニックになったパトリックに寝るまで寄り添うリー
・パトリックの母親との食事の気まずさ
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