オーデュボン

マンチェスター・バイ・ザ・シーのオーデュボンのレビュー・感想・評価

4.4
船。

昨年のアカデミー賞で脚本賞と主演男優賞を受賞した今作をやっと観ることができた。悲しみを抱えた男と周囲の人間のシリアスな物語を、時にそのままシリアスに、時にユーモアも交えながら静かに語る映画。

主演男優賞受賞、納得の一言しかない。ケイシーアフレックは今作で難しい役を完璧か、それ以上に演じている。過去と現在で変わってしまった人柄を絶妙に演じ分け、特に後者から漂う哀愁は本物のそれにしか見えない。彼以外の人物の演技も素晴らしく、特にルーカスヘッジズが良かった。トムホランドを少ししかめ面にしたような青年は、重要な役柄を見事に演じ切っていた。主人公の兄を演じたカイルチャンドラーは個人的に好きな脇役だが、今回もとても良かった。
過去と現在を交差しながら進むストーリーはある時点で、過去に起きた事件が発覚してからその様相を変える。あんなことがあったから今こうなってしまったのか、と分かるシーンは、あまりにも悲しく、絶望感しかない。その事件の前と後を象徴的にカットバックさせながら映す編集は神業。
そんなシリアスさがベースにありながらも、会話には思わず笑ってしまうユーモアが満載。ここがこの映画の特異なカラーを決定付けている点だと思う。

経験した絶望をなんとか乗り越え、その先にある光に向かって歩き始める。そんな物語は今まで幾らでもあったが、今作が出す答えはそれらと決定的に異なる。それを主人公がついに口にしたシーンは涙無しには見れない。そんな一生かかっても乗り越えられそうにもない悲しみを抱えながら、それでも何か生きていく意味があるのかも知れない、とキャッチボールや釣りのシーンを見て思った。あまりにも悲しく、可笑しく、静かで暖かい映画だった。