やもさん

マンチェスター・バイ・ザ・シーのやもさんのレビュー・感想・評価

4.3
私はこの街が好きだった。我が故郷であり、兄と過ごした思い出の街。甥と触れ合っていくことで思い出される楽しかったあの頃の懐かしい記憶。しかし、それと同時に思い起こされる辛い過去の記憶。この街には相反する二つの記憶が結びついてしまっている。
そのような環境の中で主人公は明日への一歩をなんとか踏み出そうとしていくのだが、ちょっとした会話や出会い・再会なんかが哀しみの瀬戸際にいる彼の心を抉ったりするのが、すごくリアルで繊細で素晴らしい。

哀しみを内に秘め、誰にも打ち明けられない苦痛を打ち明けられた時、何かが変わった。過去の辛い記憶を内に秘めつつ、過去の記憶と今の楽しい時間との共存を覚えた彼の未来はきっと明るいことだろう。
そんな予感を感じさせるラストシーン。
この物語における海という存在は兄と甥とで3人で釣りをしたという記憶でもあるのだけれども、釣りに行くばかりで自分の子どもにあまり構ってあげられなかった後悔、もういない兄との思い出。過去の色々な記憶へと繋がってしまう故郷の海に、甥と二人で釣りをするという思い出が新たに増えたことは主人公にとっての明日への一歩なのかもしれない。
やもさん

やもさん