天豆てんまめ

マンチェスター・バイ・ザ・シーの天豆てんまめのレビュー・感想・評価

4.1
大切な家族を失くさない人はこの世に1人もいない。

だからこの作品の哀しみは心深く多くの人と響き合う。

だけど、自分のせいで家族を失くした人の絶望感と罪悪感はあまりに底知れなく、そこから抜け出ることはもはや不可能なのではないか、と思うほどの生き地獄。乗り越えることなどできるのか。

全ての感情が枯れ果てた後にも人生は続く。その存在をここまでリアルに体現したケイシーアフレックが本当に素晴らしい。彼の生気を失った虚ろな瞳がいつまでも心に残る。

ルーカスヘッジ扮する少年の、父親の遺体を見る反応。彼とケイシーアフレックのロードムービー的要素も味わい深い。父の死と向き合うよりも、二股してる女の子達とHする事ばかり考えているがそれもまたリアル。

開始1時間経った頃、過去に一体何が起こったのか明らかになる。悲しい旋律のアダージョが流れて、驚愕の回想がフラッシュバックのようにインサートされる。あまりに、あまりに、あまりに、これは、、、

もう、言葉にならない。
取り返しのつかない、という言葉を100倍にしても、その取り返しのつかなさは表現できない。警察の尋問が終わった刹那、拳銃を奪い、自身のこめかみに撃ち込もうとする彼の姿。そこで死ねたらどれだけ楽だろうか。その現実を受け止め生き続ける過酷さは想像の域を超えている。

後半、妻だったミシェルウィリアムズと道で遭遇するシーンはもはや演技とは思えない。心が震えた。

そんな絶望の先に微かに、雪解けを感じさせるエンディングの余韻がたまらなく沁みる。