茶一郎

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.2
 タイトルの『ハンバーガー帝国のヒミツ』と聞いて、かのマクドナルドの創業者(ファウンダー)の汗と涙が詰まった成功までの感動の実話なのだろう……と思ったらコレが大間違い。今作は、アメリカの闇の資本主義、アメリカン・ドリームの暗部を描いた作品であり、これが実話だと言うだから明日から “i’m lovin’ it”なんて恐怖の呪詛にしか聴こえなくなってくる。
 この『ファウンダー』は、今までこの『ヒミツ』を知らずにマクドナルドを利用してきた観客に、あのポテトの塩味が、一生浄化できない敗者のしょっぱい涙から来ていたと身をもって分からせる恐怖の映画であります。

 憎たらしい笑顔で鏡(スクリーンを見ている観客の方向)を見つめながら自己啓発本で見た言葉を自らに言い聞かせる男が、今作の主人公=マグドナルドの「創業者」レイ・クロック(マイケル・キートン)。ティム・バートン版『バットマン』から『バードマン〜』、そして三回目のスパイダーマンのリブート作『スパイダーマン ホームカミング』ではハゲ鷲を模した悪役バルチャーを演じるなど、専ら、鳥類に扮した狂った役が多いマイケル・キートンですが、今作では(おそらく)世界一、鳥(チキン)を売った会社の、やはり狂った創業者を演じることとなりました。
 フランチャイズ!フランチャイズ!フランチャイズ!
 今作は、そんなマイケル・キートン扮する野心家レイ・クロックの「闇」の成功物語と、もう一人のマクドナルド創業者であるマクドナルド兄弟の「光」の成功物語を描きます。
 ジョン・リー・ハンコック監督曰く「今作は二つの資本主義の物語」。言うまでもなく、一つの資本主義はマクドナルド兄弟の努力とアイディアで成功する牧歌的な資本主義であり、もう一つはレイ・クロックの金儲けだけを徹底する現代のアメリカを象徴するような資本主義です。

 元々、セールスマンをしていたレイ・クロックはマクドナルド兄弟の経営するMcDonald’sのコンセプトに惚れ込み、一緒に手を組みフランチャイズ化を投げかけます。劇中、本気で身震いする程のシーンが幾つかありますが、一つはレイ・クロックが「アメリカ」を、「アメリカの理念」を錦の御旗として掲げ、マクドナルド兄弟を自らの金儲け主義に巻き込む瞬間。彼の言い分が説得力を持って、正義として通用してしまう恐怖です。
 その他、何故、レイ・クロックは、マクドナルド兄弟のアイディアを「パクら」ずに「乗っ取り」に走ったのか、という劇中最大の謎の真相が判明する瞬間には戦々恐々。レイのセールスマンとしての勘を認めつつ、彼の野心には恐怖と狂気しか感じません。

 尤も、現在のMcDonald’sの経営難は言うまでもなく、アメリカ的物質主義、大量生産された均一的な商品、金儲け主義は、現在の成熟社会から少し疎遠になりつつあるのも現実であります。
 しかしその現実をもう一度見つめると、レイ・クロックが理想とする「アメリカ」を体現する人物が現在、アメリカの、世界のトップに居座っているという恐怖が襲ってくるのですが。
茶一郎

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