エクストリームマン

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツのエクストリームマンのレビュー・感想・評価

3.9
We will never beat him. We will never be rid of him.

アメリカの近代史に燦然と輝く伝説、マクドナルド創業の物語……創業?

訪問販売のセールスマン一筋30年のレイ・クロック(マイケル・キートン)が、カリフォルニアで出会った「スピード・サービス・システム」のハンバーガーショップ:マクドナルド。マック・マクドナルド(ジョン・キャロル・リンチ)とディック・マクドナルド(ニック・オファーマン)の兄弟に繁盛の秘密を聞いたレイは、それをフランチャイズ化することを思いつく。クオリティ・コントロールを理由にフランチャイズ化を渋るマクドナルド兄弟を説得し、レイは破竹の勢いで店舗を拡大していくが……

自分では何一つ作っていない、生み出していないのに「創業者」とは片腹痛いけど、マクドナルド兄弟からシステムも名前も奪っておいて尚その肩書を名乗れるってところがレイ・クロックの才能なんだろうなと思う。底なしの野心、無限の突進力、成功し続けることへの尽きない欲望。アメリカの精神の一柱を成すそれらの価値を信奉し実践し続けることが、ひいてはアメリカそのものと一体化し神話になるということなのかもしれない。50年台アメリカは、レイ・クロックに限らず、目端の利く人間が次々と後にコングロマリット化するようなビジネスをはじめた時代で、現代まで続く「アメリカらしさ」の源流になっている。町で人が集まる場所=教会と同等の施設をゴールデンアーチによって実現したいと考えたレイのビジョンは、ショッピングモール、モーテルチェーン、「郊外」そのものを作り出したの建売住宅の建設・販売なんかを構想した人々と実は限りなく近くて、彼らのビジョンが根底からアメリカ社会を変えていった、その過程としても本作は興味深い。

マイケル・キートンがレイ・クロックを演じているというところが、やはり本作を特別なものにしていると思う。彼の演じるレイ・クロックは、不遇な時は勿論、マクドナルド兄弟と敵対してでもビジネス拡大に邁進しようと無茶なことをする時でさえ、どこか憎みきれない。プロットとしては『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』とか『ソーシャル・ネットワーク』に似ているけど、それらと違うのは、マイケル・キートンの放つポジティブな空気だろう。ダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)もマーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)も、どちらかといえば陰のあるキャラクターだ。対して、マイケル・キートン演じるレイ・クロックはとにかく明るい。レイ・クロック本人が例の自己啓発レコードによってそういう風な人だったのかもしれないけど、それとは関係なく、マイケル・キートンが放つ陽の気配が、映画が決定的に悲惨一辺倒の物語に堕してしまうのを食い止めていた。

マイケル・キートン以外のキャストもよくて、レイ・クロックの妻エセル役のローラ・ダーンは、離婚話する食卓のあの雰囲気とか最高だし、パトリック・ウィルソンはいつも通り?寝取られてて笑った。マクドナルド兄弟役のニック・オファーマンとジョン・キャロル・リンチは、服装からも実直さが滲み出していたし、1幕目のハイライトである「創業秘話」の怒濤の語りと、テニスコートに絵を描いて「スピード・サービス・システム」のリハーサルする場面はワクワクした。後々レイ・クロックと結婚することになる(当時人妻の)ジョアン・スミス(リンダ・カーデリーニ)とステーキハウスでレイ・クロックが会う場面はどれも緊張感あったな。特に、粉シェイク(インスタミックス)作成をジョアンが実演してみせて、それをレイが食べる場面は完全にセックスで、それを夫:ロリー・スミス(パトリック・ウィルソン)がいる前でやるのかと。ジョアンのピアノ弾き語りにレイが混ざって歌う場面のパトリック・ウィルソンの表情が絶妙だった。あと、忘れちゃいけないハリー・ソナボーン(B・J・ノヴァク)。「あなたがやっているのは、飲食業ではなく不動産業ですよ」とレイ・クロックに教え、マクドナルドの(レイ・クロックの)帝国化を完全なものにした功労者。B・J・ノヴァクは本当にいい貌してる。

レイ・クロック自体はほんとヒデーことするなと思うけど、映画として、エンタメとしては、こういう怪物みたいな人間観るのはたのしいからやめられない。いい映画だった。願わくば、もっと大スクリーンで……