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ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.9
 1954年ミズーリ州セントルイス、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回っていたレイ・クロック(マイケル・キートン)は、今日も空振りばかりだった。52歳という年齢にも関わらず、田舎の飲食店を積極的に回る彼は、ステーキ屋のドライブスルーの不便さにげんなりしていた。最愛の妻エセル・クロック(ローラ・ダーン)が待つ家には戻れず、今日も1人モーテルでアルコールを煽りながら、寂しい夜を過ごしていた。「ポジティブの力」のアナログ・レコードに針を落とし、「執念と覚悟さえあれば、人は考えた通りの自分になる」という言葉に今日も鼓舞されていた彼は、翌日からも中西部の田舎町を精力的に回り続ける。だが「ニワトリが先か卵が先か」という取ってつけたようなセールスの口上に誰も耳を傾けることはない。プリンス・キャッスル社というあまり流行らない企業に、マクドナルドなるハンバーガー・ショップから、ミキサー8台の注文が届く。翌日レイはお馴染みの青い車で、ミズーリからアリゾナへ渡り、サンバーナディーノへはるばるやって来る。いつものようにハンバーガー・ショップに並ぶ長蛇の列の最後尾に並んだレイは、この店のスピード・システムに驚く。

 世界最大級のファーストフードチェーン「マクドナルド」の影の歴史に光を当てた物語は、野心家レイ・クロックの破天荒な人生にフォーカスする。彼の姿は21世紀の今なお起業家たちに絶大な影響を与え続けている。鳴かず飛ばずの人生を送った52歳はマック&ディック兄弟が経営する「マクドナルド」と出会い、その革新的なシステムに勝機を見出し、手段を選ばず資本主義経済や競争社会の中でのし上がっていく。その姿は19世紀のゴールド・ラッシュのようなアメリカン・ドリームを体現する。手段を選ばず資本主義経済や競争社会の中でのし上がっていくレイと、兄弟の対立が決定的になる過程は、残酷なまでに夢の行き先を分かつ。レイの野心的な好奇心ある提案に対し、臆病で職人肌の兄弟はことごとく『No』と言い放つ。その守りに入った人生を更に助長するのは、最愛の妻エセルに他ならない。やっとの思いで手に入れた夢のマイホームでさえも抵当に入れたレイのなりふり構わぬ強かさには、周りの人間が呆気にとられる。稀代の人たらしとしての才能で、ハリー・J・ソネンボーン(B・J・ノヴァク)やロリー・スミス(パトリック・ウィルソン )、フレッド・ターナー(ジャスティン・ランデル・ブルック)らを懐柔しながら、自分には導き出せなかったアイデアを取り入れ、アメリカ全土に進出する。黄色いキャンディに託した子供たちの夢、グラスに付いた口紅の真っ赤、インチキパウダーだと揶揄されたインスタ・ミックス。仕事一筋の狂信的な野心家を演じたマイケル・キートンの佇まいが素晴らしい。
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