つのつの

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツのつのつののレビュー・感想・評価

3.7
成功者の内実の空虚さ、惨めさというテーマだけ取り出せば非常に手垢の付いた作品に見える。
しかし本作の主人公レイクロックは、従来の成功者とは一味違う。

冒頭であくせく五本軸ミキサーの契約を取り付けている彼はまだ健気なビジネスマンだ。
サービスも品質も良いとは言えない田舎のダイナーに嫌気がさしている彼には寧ろ親近感すら湧く。
そんな彼がひょんなことから出会った"マクドナルド"ハンバーガー店のあまりの効率の良さに感動し、オーナーであるマクドナルド兄弟とのビジネスを始めるあたりから歯車が狂い始める。
フランチャイズ化を図るクロックと、品質にこだわる兄弟との確執は必然だった。
そもそもマクドナルド兄弟は病室にイエスキリストの磔刑像を飾るほど誠実で熱心なクリスチャンだ。
しかしクロックは人々の信仰心に、「金儲け」を見出すのだった。


この後に続く兄弟とクロックの軋轢が深まる過程は、正直なところよくある話に落ち着いている印象が拭い去り難い。
けれども、編集のテンポとロジカルな物語運びの面白さにより、観客の興味が途切れることはない。
それもまたグッドフェローズで確立された「音楽と編集にカットインセンスを取り入れたヒップホップ演出」とはひと味違い、一定の落ち着きや停滞感とテンポの両立を保ったものだった。
それは本作が、あくまでギャングスターのし上がり映画ではなくビジネスマンとして生き残ってきた男の話であるからだろうか。

クロックはポスターにもあるように、劇中で何度も腰に手を当て胸を張って立つ仕草を取る。
その如何にもヒーロー然とした佇まいは、彼が自分の行いへの後ろめたさが皆無であることを端的に示している。
彼を駆り立てる「ポジディブの力(ネーミングの胡散臭さやばすぎ)」というタイトルの自己啓発レコード。そこで語られる内容は、「根気」「努力」といった精神論の範疇をまったく越えることがない。
だからこそクロックは自分に自信を持ち、成功のためにあらゆる行動を取り続けているのだ。
この点から考えると、クロックがただの異常者とは思えない。
何故ならこの現代において、「9999回ダメでも10000回目を試そう!」みたいなメッセージを放つ表現はいくらでもあるし、自己啓発本のポスターが電車の広告を占拠しているからだ。
もちろんそれらの表現が否定されるべきではない。何かに本気で取り組み努力すること自体が悪いことではまったくない。
しかしその弊害としてクロックのような人物が生まれてしまう事実にも目を向けるべきだ。そのためにこそ映画、というより芸術があるのだ。

そんなクロックがラストで示す表情の不穏さが印象的だ。
冒頭と同じく彼はカメラ目線で持論を展開する。
しかしその内容が冒頭のような商品の売り込みではなく、抽象的で捉えどころのない「根気」についての話になっているのが実に皮肉だ。
威勢良く喋り続けていた彼は不意にはたと我に帰る。けれども、彼は一抹の不安を胸に抱きながらもそれを抑え込むのだった。
エンドロールには、実話ベース映画の恒例となりつつある本人映像が用意されている。
そこに出てくる本物のクロックに見える如何にもアメリカ的金持ち像には、気持ち悪さとおぞましさしか感じられなかった。
しかしそれもまたラストシーンを思い返すとまた別の印象を抱く。
「マクドナルドというより名前の響き」や「根気」についてガハハと笑いながら語る彼の背後に隠された後ろめたさが透けて見えて仕方がない。
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