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ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツのnanaのレビュー・感想・評価

3.8

「マクドナルド」

この音の響きに取り憑かれ、心踊らせた男が小さなベンチ食堂を世界に広めた実話

調子が良くて欲深い。
彼の武器は「しつこい」こと。
売れないセールスマンが世界企業のトップに君臨する。

狡猾で優秀なビジネスマンだった訳ではない。
冴えない、失敗だらけの中年男だった。

「あの店」の衝撃を受けるまでは。


1954年アメリカ
ミルクシェイクを同時にいくつも作れるミキサーを売る会社の経営者のレイ·クロック(当時52歳)。

商品のミキサーはなかなか売れず、借金と生活に不満を持つ妻を抱えている。

運命の出会いの日、レイはドライブイン·レストランで食事が遅く出されたり、オーダーと違う品を出されたりとイライラ。
しかし秘書に電話をすると、6台のミキサーの注文が1つの店から入っていると言う。電話中に更に2台の追加。

どんな店か?と胸を躍らせ車を飛ばし、カリフォルニアへと向かうレイ。
そこには長蛇の列を作るお客で溢れたハンバーガーの繁盛店が。

兄のマックと弟のディックが兄弟で経営する地元の小さな店。

客の満足そうな顔に驚き、マックに店の中を案内してもらう。

効率的で厳しい品質管理。
オリジナルの調理器具を開発し、全く無駄の無い作業システムは画期的だ。

フォークも皿も必要ない。
小さな子供もきれいに食べられる。
回転が良く、店はベンチだけでOK。
そして美味しい。
注文してから早く提供されるが、丁寧な良い店だ。
当時はそんな外食店が他に無かった時代。

レイはフランチャイズ化を兄弟に提案するが、ハリウッドで働き、映画館の経営に失敗して外食産業に転職し、工夫を重ねて理想の店を作った2人。
兄弟は手堅く、提案を断る。

しかし、マクドナルドの店を忘れられないレイは、兄弟にしつこくアプローチ。

「マクドナルド」
この響きがレイのお気に入り。
妻に同じような自分の店を出すよう促されるのだが、
「マクドナルド」
この名前であの店で無ければダメなんだ。

熱意にほだされ、
「経営内容を変更する時は必ず兄弟の許可を取る事」
を条件に、ビジネスパートナーにレイを迎え、フランチャイズ化の契約を交わす兄弟だが…。

お金第一のレイと、これ以上広げては客の満足の行くサービスを提供出来ないと言う兄弟に軋轢が生じる。
職人堅気の田舎の良い人と、口が上手い、金儲けと権力欲の塊の男が合う訳が無い。
溝は深まる一方だ。

妻帯者のレイだが、仕事で知り合った取引先の美しい人妻を好きになり、双方離婚して再婚。

この新しい妻がまた酷い。
おそらくレイにこれからのステータスを感じければ、一緒になどならなかっただろう。
彼女にとってレイとの結婚はまさにビジネス。
地元の小金持ちの夫を捨て、レイに自らの夢を重ね、高みに登る野望でいっぱいの女だ。
野心という同志で気も合うのだろうけど。

原料のアイスクリームを粉末パウダーに変え、「同じ味よ」と原価とコストの低い品質を落としたシェイクを提案する。
目先の利益で消費者を平気で裏切り汚い経営を促す。

元の理念とかけ離れていくマクドナルド。

レイの暴走を止めようとした兄弟を鬱陶しくなったレイが企てた作戦とは?


金を持ち、自信に溢れて傲慢になって行くレイと、誠実を守ろうとするマクドナルド兄弟。
真逆の人間の対比がよく描かれている。

レイのような人間がいる一方で、兄弟のような人達が「食」と「サービス」に関わっている事も事実だ。

実直で誠実な人が踏みにじられる。

「マクドナルド」という世界的なモンスターになってしまった街の小さなベンチ食堂。


やりきれない実話。


レイ役のマイケル·キートンの躍動感溢れる演技が素晴しい。
興奮した子供のような表情、疲れきった中年の顔。
ズルく立ち回る場面など目の奥が本当の悪役みたいだ。

序盤、興奮と高揚
中盤、ハラハラ 
後半、悲しい。

あっという間に観てしまう、展開が良く出来た作品。


いけ好かないビジネスマンのサクセスストーリーと、悲しい兄弟のヒューマンドラマ。



ハンバーガー
あまり好きではないけれど、あの兄妹の手作りのハンバーガーを食べてみたい、と思った。

きっと私はあの時ベンチに座ったお客さん達のような笑顔は出来ないだろう。
この映画を知ってしまった後だから。