鰯

菊とギロチンの鰯のレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
4.4
強くなければ何にもできない

関東大震災で社会不信が高まる東京郊外。複雑な事情を抱えた力士を集めた女相撲の一座「玉岩興行」がやってくる。夫の暴力に耐えかねた花菊は新入りとして稽古に励んでいた。一方、大阪では平等な社会の実現を目指すギロチン社が実業家から資金を集めていたが、活動も行き詰まった中濱と古田は東京へと向かう。

3時間という長さに若干抵抗を覚えましたが、がんばって観てきました。観てよかった!!
風紀を乱す「えろ」として監視や男衆の目に晒されながら、最悪の状況から抜け出そうとする彼女らの姿に心打たれました。変えたくても変わらない、弱ければ何もできない、口だけではどうにもならない。夢や希望をもった若者はたくさん出てくるけれど、現実はあまりに厳しい。明るいシーンでも、「この人たち次の瞬間には殺されちゃうんじゃないか」という妙な不安が付きまといます。また、理想を高く掲げても利己的に行動してしまう弱さを描き続けているのもお見事。
相撲のシークエンスは、初めの諸々の儀式から土俵入り、取組、退場までしっかり描いていて単純におもしろい。客の掛け声や拍手歓声に、私も劇場で立ち上がって声をかけたくなりました。歌や太鼓にも乗せられました
主要なキャラに絞りながらも、周囲の人物の背景や事情にも想像力を巡らせたくなる群像劇のような要素もあり、各々好きな語り口が見つけられるのではないかと思いました。個人的には一座の親方に惚れました。力士を守り、一座を守り、規律も守らせる。警察が入ってきても、反発するのでなく、批判はうまくかわす。一番モテる役どころだったんではないでしょうか。終盤のあるものを「折る」場面からエンディングまでの一挙手一投足から目が離せませんでした

一方で、玉岩興行やギロチン社のメンバーに対し暴力をふるう人々(在郷軍人)にもきちんとした背景を与えているのは印象的。結局、得体のしれない「御国」に振り回されていたのだと痛感させられる。ある人への拷問後の展開は、観ていてかなり心苦しかったです。また、社会統制する側も一枚岩でなく、各々に考えていることがあったのも良かったですね

私はそれほど知っている役者さんがいなかったため、逆に先入観なく観られてよかったです。特に木竜麻生さんには衝撃。相撲シーンも見ごたえ抜群ですが、かなり攻めた場面も登場し、本気度の高さがうかがえました。後半の海に入っていくシーンでの表情が忘れられません

女相撲一座のキャラが立っている一方で、ギロチン社はかなりカオスで構成員の背景をうかがい知るのが難しい。正直何を考えているのか、まったくわかりませんでした。あのあたりは予習しておくべきだったかも。ただ私の中での最高俳優、井浦新さんが登場してきてびっくり。さすがの存在感でした。
終盤でタイトルが現れる瞬間には驚き。そこが「監督の推し」なのかなというシーンだったので印象深かったです

観てよかったけれど、長いなあという印象は拭えず。とはいえ前編後編に分けるやり方は好きでないので、受け入れるべきかな