回想シーンでご飯3杯いける

菊とギロチンの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
4.2
こんなに熱い邦画を観たのは初めてかも。大正末期に実在したアナーキスト集団と女相撲一座の共闘を描いた作品という事で、正直馴染みのない題材に最初は戸惑ってしまうのだが、、、、30分を過ぎた辺りから俄然面白くなってきて、3時間の長尺を食いつくように観てしまった。

アナーキストとは言っても理想論ばかりで実行力を持っていなかった「ギロチン」のメンバーが、女相撲の興行で躍動する力士の姿に感化される様子が面白い。当初はおっぱいポロリ目的だったアナーキストが目の当たりにしたのは、訳あり女力士達による生命観溢れる戦い。夫の子を産み、育てる事しか道がなかった当時の日本人女性が、自分らしく生きるには遊女か力士になるしかなかった。そんな彼女達の体を張った戦いっぷりは、しっかりと映像でも表現されていて、本作の見所になっている。

大正デモクラシーの名の下に民主主義への道を歩み始めた当時の風潮の中で、アナーキストと女力士の意思は見事にリンクした。その姿を、青春群像劇としてまとめた本作は、近年の邦画で例がないほど独創的だ。

一方で、関東大震災後の飢餓や不況を背景に軍国主義に向かう政治や、国技となった事で女人禁制ムードが高まってきた相撲界の動向、更に朝鮮人虐殺も、本作の背景として重要な要素。排他と差別に向かう日本の行く末に対峙する、若者達の熱いドラマなのである。

しかし、これだけ熱い作品でキネマ旬報ベスト・テンで2位等、多数の受賞歴を持ちながら、劇場では限られた公開に留まった事は本当に残念だ。韓国では同じく民主化運動を描いた「タクシー運転手」や「1987、ある闘いの真実」が国民的なヒットになっている事と対照的である。映画に限らず日本は近代史を軽視し過ぎ、いや、はっきり言って意図的に封印されているような状態である。この状態に対して、作り手だけではなく、僕達観客も自覚的になる必要があると思う。