タキ

菊とギロチンのタキのレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
4.2
1時間だけ見ようと思って時計の針がてっぺん間近で見はじめて結局最後まで見てしまった。終わったの深夜3時頃。長さは感じない。久々に目の開く思いのするいい邦画を見た。
大正時代のアナーキストと女相撲との邂逅というありそうでなさそうな、いや絶対ないだろうという不思議な組み合わせ。しかし両者をクロスさせて"自分を生きよう"と足掻き続ける男と女の群像劇はちゃんと成立していた。
女相撲の視点がすごくいい。蔑まれがちな場所で自らを強く強くと奮い立たせている女たちの眼差しの凛々しさ美しさはカッコよくて震える。相撲シーンもド迫力でどの取り組みも見応え十分。この手抜きのなさが素晴らしい。自分も観客のひとりとなってかなり楽しんだ。
訳ありの女たちの中でこの物語の最も繊細な部分を担う十勝川はなえの独白は胸に迫る。数々の映画やドラマで「天皇陛下、バンザーイ」というシーンを見てきたけれど朝鮮人の虐殺に加担したシベリア帰還兵たち、平等の国を夢想するアナーキスト、祖国にも日本にも居場所がない朝鮮人の女、三者三様のこんなに哀切なバンザーイは聞いたことがなかった。
一方のアナーキストは国を変えたいと足掻くも頭でっかちでどこか浮世離れしておりよく言えば総じてピュアな男たち。隅々まで拗らせててしっかりせえよとハッパかけたくもなるが一面愛らしくて憎めない。あまりに残酷な現実に翻弄される女たちに寄り添うテツと大さんの優しさにホッとする。しかしこの2人、そののち死刑になったらしく…大さんはともかくテツさんのやったことといえば恐喝ぐらいだったのにビックリした。自分の生まれ育った国なのに知らないことがまだまだたくさんある。
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