アズマロルヴァケル

アルビノの木のアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

アルビノの木(2016年製作の映画)
3.0
良作なのに脚本が惜しい映画

・感想

『ファミリー☆ウォーズ』『カメラを止めるな!』に出演していた細井学さんの作品を観ようと、気になってレンタルで観賞してみました。

まず、全編に渡って映像が綺麗です。まるで印象派絵画や写真でも観ているかのような画的なシーンが多く、何度観ても飽きなかったです。特に、前半でユクと今守が町役場のアヤと別れたときの山々とカットは素晴らしく、いつかこの映画のロケ地をスケッチしたいなぁと思ってしまってなりませんでした。

あと、クライマックスでユクが赤い川を歩いていくカットもとても神秘的でした。日本にあんな場所があったんだと感心させられるし、何よりもこのロケ地を見つけた金子雅和監督は見つけてくれたことには感謝したいと思っております。多分、劇場やプロジェクターで観ると、もっと迫力のある映像が観れるんじゃないかなぁと思いました。

ただ、この映画の問題点は結構ありました。

まず、前半でナギの祖母であるチトヤという人物が登場するのですが、後半でチトヤが登場しないどころか、主人公のユクやナギの台詞から『チトヤ』という言葉が出てこないのでなぜチトヤを登場させたのだろう?と思った。それにチトヤの孫のアヤが町の役場で働いているのに対して、ナギは対照的に村に住んでいるのでなぜふたりの孫が違う場所で暮らす必要があるのかが不透明でした。きっと中盤のナギの台詞がヒントかもしれないけど、それだけでは具体的に分かりにくい感じはしました。

あとは果たして『白鹿様』ことアルビノの鹿がユクに殺されてしまったあと、あの村の人々に影響があったどうかが曖昧だったのでモヤモヤ感が残った。ラストで 村の人々が和装で山を降りるシーンがあるのだが、何も村の人々の葛藤を描かないままあっさりと描いているので、
村人であるナギと羊市しか描かないのは
ちょっと無理があるなぁと思いました。

要は何が具体的にダメだと感じたのは、
アルビノの鹿を一頭殺す物語に主人公のユク、ヒロインのナギ、そして婚約者の羊市の三角関係は要らないのではないかという点です。確かに、監督がそう主軸としてどうしてもやりたかったのだろうと思うんだけど、害獣じゃなさそうなアルビノの鹿を殺すか殺さないかというひとつの議論を物語で展開するうえで非常に要らないように感じてしまいます。せっかくなら、主人公の同僚の今守がユクと一緒に依木村に来てから衝突した方が
ストーリー的には見応えがあるし、面白みがあったのではないかと。


とにかく、金子雅和監督のやりたいことは分かる。長野県を舞台にしたロケーションも活かされてて映像面では撮れていると思うが、物語を作るうえで脚本が惜しいという印象があった。次回作ではもっと自然と人間の関係性に深くメスを入れ込んだ作品を期待しています。