茶一郎

ウインド・リバーの茶一郎のレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.2
 メキシコとアメリカとの国境麻薬戦争の全貌が把握し切れない混沌さをテーマとしたスリラー『ボーダーライン』。
 先住民から土地を奪った白人たちが今度は金持ちに土地を奪われているという、アメリカン・ドリームが去った後のテキサスを舞台にした現代の西部劇『最後の追跡』。
 「アメリカの暗部」を上質なエンタメに乗せた二作は、その優秀なオリジナル脚本の生みの親にして、本作『ウインド・リバー』の監督兼脚本テイラー・シェリダンが「現代のフロンティア三部作」とする作品群です。そして、その三部作を締めくくるのが、沈黙と寒さしかないネイティブ・アメリカンの保留地ウインド・リバーを舞台にしたこの『ウインド・リバー』になります。

 通年、雪が降り続ける地獄のウインド・リバーで、身体中に傷を負いながらも裸足のままで放置された先住民女性の怪死体が発見されました。FBIの新米女性警官ジェーン(エリザベス・オルセン)は、死体の第一発見者であり、亡くなった女性の父親と親友でもあるハンターのコリー(ジェレミー・レナー)と手を組み謎深まる捜査を始めていきます。
 本作『ウインド・リバー』はミステリーを軸に、冒頭、保留家にはためくアメリカ国旗を怪しくアップする描写から始まるアメリカから忘れられた地である先住民の保留地の闇、すなわちアメリカの暗部をまた浮き彫りにします。

 派遣された女性がメンター的存在と、その土地特有のルールに翻弄される、という『ボーダーライン』同様の展開を見せながら、この『ウインド・リバー』は『ボーダーライン』において雲の上の存在として君臨していたメンターと女性が、深く静かに心を通わせる過程を描いているという点で、二作は大きく異なっていました。
 「現代のフロンティア三部作」、メキシコ人とFBI(『ボーダーライン』)、コマンチ族(先住民)とホワイト・トラッシュ(『最後の追跡』)、と二つの「土地」、コミュニティを超えたマスターが常に描かれてきましたが、『ウインド・リバー』におけるマスター=コニーの描写の深みは二作を超えています。

 緩急見事な銃撃戦。マスターだけが見る驚愕の真相。ホークアイとスカーレット・ウィッチ、そしてパニッシャーの共演もMARVELファンなら嬉しい所。
 何より、真相も明らかになり、事態が収拾した後に示される現実のアメリカの「闇」に、最も観客は驚かされます。
茶一郎

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