幕のリア

ウインド・リバーの幕のリアのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.2
『叛アメリカ史』豊浦志朗著
船戸与一のペンネームで、迫害される者の悲痛な叫びをエンターテイメントに著す前の優秀なノンフィクション作品。
多感な頃にこの作品で、決して成功譚として括れないレジスタンス達の言葉や行動に感化された。

本作の舞台は、ネイティブ・アメリカンの居留地区。
無論彼等は元よりこの地に代々住んでいるのではなく、人が住まない、人が住めない地域に隔離されたに過ぎない。
元来は、狩猟民族であるインディアンが生活の糧を得る土地に由来があったのだろうが、現代において大きな意味はないはずだ。

余所者によって蹂躙される者はネイティブアメリカンに限らない。
我々観客は主人公の直接的な間接的な痛みを共有し、彼の視線を通して事件を追っていく事になる。

そこに現れるフロリダ出身の明らかな余所者のFBI女性捜査官。
猛吹雪の中で目の前も見えずナビの誘導も空しく道を失い登場するシーンが印象的。
彼女はその地で行動するためのドレスコードもわきまえず、まともな捜査すらままならない。

サスペンスフルな作品かと身構えていだが、意外にも雪上の足跡を丹念に追うだけの静けさに魅入られる。
その静かな行動をやんわり拒否する妻の姿に心が痛む。

雪上バイクの爆音、猟銃の破壊力、過剰な銃撃。
狩る者と狩られる者の慟哭が爆ぜるシークエンスはアクセントでは済まされない衝撃があった。

予定調和は望むべくも無く、ネイティブアメリカン家族に灯る微かな希望が救い。

2018劇場鑑賞66本目
幕のリア

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