つのつの

ウインド・リバーのつのつののネタバレレビュー・内容・結末

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【強さ=呪いに縛られた現代のカウボーイ】
古き(良き)アメリカが抱えていた「強さ」をめぐる映画だと思う。
本作には様々な意味で逞しい・強い人間が登場する。
遺体となって発見されるも最後まで生きる意志を貫いた被害者
激しい銃撃戦に巻き込まれながらもFBIとしての知恵を絞って捜査を続けるジェーン。
この2人の生き様は非常に崇高で感動的だ。

しかし一番胸に刺さるのは、ハンターのコリーとネイティブアメリカンのマーティンが持つ強さだ。
彼らは自発的に強くあるというよりも、強くあることに「縛られている」人間に思えたからである。
序盤でマーティンとの会話や、ジェーンに自分の過去を語る場面で、コリーは「子供を失った悲しみと向き合え」「子供から片時も目を離さずに育てろ」と言う。
言葉だけ取り出せば、子供に対して自分はボスだと分からせ、悲しみにメソメソせず乗り越える!といういかにもアメリカヒーロー的な精神そのものだ。
それは、痛みや孤独に苦しむ弱い人間を優しく肯定する作品が増えている昨今において、凄く古臭く感じられる。
実際自分もこの場面を見ていた時は、ラストでこのセリフをひっくり返す、ジョンウェイン的西部劇の脱構築映画なのかなと言う予想をしていた。

だがそんな安易な予想は本作には通用しなかった。
ラストで、コリーとマーティンは「悲しみは時間が癒す」「子供は親離れしても安全に育つ」という救いを手にすることはできないのだ。
ここに来て初めてコリーは昔気質な父権的精神を、時代遅れだからではなく必要に応じて身につけていた人間だったとわかる。
娯楽が殆ど無い閉鎖的な街で若者の犯罪は後を絶たない。
コミュニティの繋がりは強いから簡単に噂は広まる。
おまけに一年中雪景色が途絶えることはない。
そんな土地では、コリーもマーティンも娘を亡くした己の傷跡を癒す術を見つけられないのだ。
だから極度に気丈に振る舞い辛い思いをひた隠しにして生きていく。
それは肺に溜まる血のように胸を締め付けるが彼らは、そのようにしかウインドリバーという地獄を生き延びることはできない。

ラストの数分間はおそらく彼らにとってほんの一瞬だけ訪れた癒しの時なのかもしれない。
精神を病んだ妻も穏やかに眠る間、娘の記憶はトラウマではなく美しい思い出としてマーティン、コリーの胸に迫る。
この直後に彼らは再び強さという呪いに縛られて生きるしかない。
だからこそ2人にとっての、この瞬間の尊さが伝わり自然と涙が流れた。
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