きえ

ウインド・リバーのきえのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.0
悲劇の連鎖止まないインディアン居留地ウィンドリバーを舞台に描かれる知的サスペンス。雪深き静寂と獣的暴力のコントラストが希望の見えない無法地帯の現実を映し出す。この作品で初監督を務めたテイラー・シェリダンの社会派な着眼と話の巧さは一貫している。復讐劇、成長・友情物語、居留地の現実、米国の闇…様々な要素が絡み合って重い余韻を残した。

娘をネイティブアメリカンに殺された過去を持つ父親ジェレミー・レナーと新人FBIエリザベス・オルセンによるバディ物として見ても面白い。過酷な現実に足を踏み入れた新人FBIはどうしても『ボーダーライン』のエミリー・ブラントに重なった。

そして悲劇の父親であり居留地に暮らす白人と言う難しい立場を演じるジェレミーの役者としての魅力が半端なかった。犯人と対峙する雪山での"目には目を"的クライマックスシーンは、現代社会、先進国社会では悲劇連鎖の止まない行為として認められてはないが心情的には最高と言わざるを得ない。

2人の男(父親)の背中で終わるラストも秀逸だ。それでもそこで生きて行くとは自分の感情に折り合いを付けて行くと言う事なのだろう。変わる事のない過酷な過酷な居留地の現実の前では僅かな僅かな光だけど"友と共にあらんこと"に救いを見た。

この作品は米建国の歴史とインディアン居留地の抱える現実を予習してから観るとより深く楽しめると思う。

かつては1億人以上の先住民がアメリカ国土の100%を統治していたが今では僅か200万人がたった2%を統治しているだけだと言う。ヨーロッパから押し寄せた入植者(白人)によって産業も起こせない辺境に居留地を与えられた先住民の不当さにアメリカ建国の闇が見える。ちなみに本作の舞台ウィンドリバーはアメリカの地下核実験場が作られてる場所でもある。国家の闇は深い。

映画は"教科書で学べない事を学ぶ教科書"…
きえ

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