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イレブン・ミニッツのDDのレビュー・感想・評価

イレブン・ミニッツ(2015年製作の映画)
5.0
■世界三大映画祭制覇のベテラン監督が描く壮絶なボケ倒し

ヴィンセント・ギャロ決死のサバイバル映画『エッセンシャル・キリング』から5年、イェジー・スコリモフスキ監督帰還作の『イレブン・ミニッツ』は、11分間に14人+ワン(犬)が体験する出来事を群像劇風に描いた破天荒なサスペンスだ。スコリモフスキ監督の『ザ・シャウト』を思い起こさせる、音の使い方も特徴的。飛行機の爆音、救急車のサイレンといった生活音が誇張され、不吉な響きをもって画面を覆う。

結婚したばかりのセクシー女優アニャは、女たらしの監督の面接を受けるためホテルに向かう。その入り口では、教え子とひと悶着起こして最近出所したばかりのホットドッグ売りが屋台を構え、客のシスターたちと軽口を楽しんでいる。その脇を、アニャの嫉妬深い夫が穏やかでない表情を浮かべ急ぎ足でホテルへ駆け込んでいく―こんな具合に、街のあちこちで、異なる人々が、日常から「ちょっとズレたこと」にみずからの意志で踏み出すのだが、わずか11分のあいだにその「ちょっとしたズレ」は思いもよらない亀裂へと急変し、すべての人を予期しない運命で結びつける。

それぞれの間に生じる出来事には、思わせぶりな仕掛けが幾つもなされる。意味深な会話、不穏な空気。「11分間」と銘打たれているからこそ、必死でそこに何らかの端緒がないかと探してしまうのだが、食いついた途端、ミスリーディングであることが判明して翻弄される。壮絶なボケ倒しである。ツッコミは、いつ入るのか。物語の行く末が読めず、脳が悲鳴を上げる酸欠状態にまで追い込まれた後、「それ」はやってくる。

御年78歳にしてよくぞやってのけたと拍手を送るしかない結末は、賛否が分かれるところかもしれない。ここで冒頭の数分が効いてくる。スマートフォン越し、監視カメラ越し、ネット経由で撮られた画像。カメラは今や誰もが扱うアイテムであり、インターネットの世界には、「真実」と称したフェイク動画が溢れている。度肝を抜かせるなら、映画のほうが一枚上手。そんな監督の底意地を見た思いがした。
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